2024年2月21日(水)

スポーツ名著から読む現代史

2022年6月29日

名乗り上げる救世主、球界再編、「スト」の文字

 選手会会長の古田敦也(ヤクルト)が最初に合併のニュースを聞いたのは、遠征先の秋田だった。よくある噂話のたぐいだと思ったが、両球団が記者会見を開いたと聞き、事の重大さを理解した。

 <「1球団なくなるって、どういうことなんだろう」古田は思った。単純に言えば、その分だけ選手がクビになる。スタッフがクビになる。いやそれだけではない。(略)5球団。1日2試合で一つ余る。こんな不自然がまかり通るわけがない。>(同書34頁)

 近鉄球団の存続を願う選手会に、救世主が表れた。資本金237億円、東証マザーズに上場したインターネット関連企業、ライブドアだ。堀江貴文社長が6月30日、記者会見し、本拠地を大阪に残したまま、近鉄球団を買収したいと表明した。球団の買い手が現れたことで、選手会は期待を寄せたが、7月1日に開かれたパ・リーグの臨時理事会では、ライブドアの提案は黙殺された。

 7月7日、12球団のオーナー会議が開かれた。近鉄とオリックスの合併が了承されただけではなかった。出席した西武ライオンズの堤義明オーナーから「パ・リーグでもう一組の合併話が進んでいる」と報告があった。

 5球団どころか、4球団になれば、もはやパ・リーグは存続できない。セ・リーグ6球団と一緒になって10球団での1リーグ制という可能性が出現した。

 6月に近鉄とオリックスの合併話が浮上して以来、急展開で球界再編まで話が進み、選手会はなすすべもなく事態を見守るしかなかった。そんな状況の中、7月10日、選手会の臨時総会が名古屋で開かれた。近鉄、オリックスはもちろん、「もう一組の合併」に噂されるチームからも代表が参加した。

 古田会長がそれまでの経過を説明した後、以下の決議案が説明された。<1 来シーズンの合併は凍結、合併が将来の野球界にとってベストかどうかの議論・交渉を1年かけて行って、その結果合併以外の選択肢が現実的でないと判断された場合に限り、選手会は合併を承認するものとすること。2 上記合併承認に至る手続きとしては、野球協約第19条の特別委員会を開催すべきこと。開催せずに合併を決定するときには、決定手続きの違法を争うため、野球協約第188条のコミッショナーへの提訴などといった法的手段を講じること。3 これら法的手段が効を奏しない場合、最終手段としてストライキを行う可能性があること。実際にストライキを実行する場合には、その時期、実施方法について、12球団の各選手会長と協議の上、選手会長および12球団各選手会長の合計13名全員の承諾をもって行うものとすること。>(同書102頁)

 選手たちは、初めて「ストライキ」という文字を目にした。だが、それに対する選手の動揺はなかった。福岡ダイエーホークス(現ソフトバンク)の松中信彦は、総会を前にした選手とのミーティングで、それくらいの覚悟でいってくるからと説明していた。

 西武の和田一浩も、事前ミーティングで、ストという選択肢が出るかもしれないことを伝えていた。堤オーナーのもう一つの合併発言以来、西武のほとんどの選手が、自分の問題として認識していたこともあり、協力的だったと、同書は書いている。

続く球団と選手の平行線

 続いて12球団選手会が取り組んだのは署名運動だった。「ファン不在で進む急速な球団合併、1リーグ化の動きに反対するとともに、オープンな場での議論を通じ、球界改革が行われることを望みます」という文面を事務局が作成。合併当事者の近鉄選手会が7月16日のダイエー戦を前に、29人の選手が球場入口でファンに協力を呼びかけ、約20分間で約1200人から署名を集めた。

 こうした選手会の動きにもかかわらず、経営サイドでは着々と合併に向けての作業を進めていた。8月10日、オリックス、近鉄の間で合併に関する基本合意書が調印された。また、球界再編に強い影響力を持つ巨人の渡辺恒雄オーナーが、ドラフトで獲得した選手に対する不正な金銭授受の問題が発覚した責任をとって辞任ことになり、旗振り役の不在で、球界再編の動きがどう進むのか、混迷を深める事態も新たに加わった。


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