大統領は「スウェーデンは73人のテロリストを送還すると約束した。彼らは義務を果たさなければならない」とあくまでも強気の姿勢だ。しかし、合意覚書にはあいまいな部分もあり、加盟をめぐるごたごたは完全には決着していないもよう。
米国からも〝果実〟
エルドアン大統領が得点を稼いだのはクルド人問題だけではない。「元々同氏の要求は〝難くせ〟の類。クルド人問題の他にも、取れるものは取ろうというハラだった。最大の狙いは欧州連合(EU)への加盟だが、非白人国家のトルコにはハードルが高いことは同氏も十二分に分かっていた」(中東専門家)。
このためエルドアン大統領は現実的な獲得目標を、制裁を受けている米国からの兵器購入に切り替えた。エルドアン氏は疎遠になっている米バイデン大統領との首脳会談をかねてより切望していた。米メディアによると、エルドアン大統領がいつでも好きな時に電話ができたトランプ前大統領とは違い、バイデン氏はエルドアン氏の独裁的な手法を嫌い、電話にも応じてこなかった。
米国とトルコの関係はエルドアン大統領がロシアから対空システムS400を導入したため悪化。米国は同盟国であるトルコに対し、最新鋭戦闘機F35の開発から締め出すなどの制裁まで加えた。トルコは制裁を受けた後、老朽化したF16戦闘機の改良型機を売却するよう米国に強く要求していた。
バイデン大統領はNATO首脳会談の前日にエルドアン大統領に電話。北欧2カ国の加盟を了承するよう同氏を説得するとともに、2カ国と合意にこぎ着ければ首脳会談に応じる、と持ち掛けた。
エルドアン氏はこのバイデン提案を受け入れ、覚書の調印となった。バイデン氏は首脳会議の翌日、F16をトルコに売却する意向を伝達したことを明らかにした。
ホワイトハウスは2カ国の加盟了承の見返りであることを否定しているが、エルドアン氏の加盟反対を取り下げさせるための懐柔取引だったことは明らかだろう。米国からも〝果実〟を得たということだ。報道によると、売却される改良型F16は40機で、他に80機用の部品の交換も含まれているという。