2022年9月26日(月)

From NY

2022年7月14日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

観光客であふれるニューヨーク

 そんな状況でも、パンデミックで我慢に我慢を重ねてきた人々の旅行熱は抑えられない。ニューヨークも夏休み中の現在、街中は観光客で溢れている。飲食店も、シアター関係も平常通り運営され、タイムズスクエアなどの観光地は家族連れでいっぱいだ。

 街角には未だに無料のコロナ検査のスタンドが立つが、現在では利用者の姿もまばらでオミクロン株が出たばかりの半年前のように、人々が列をなして順番待ちをする光景はすでにない。

 マスク着用する人々の数も減った。特に外を歩く歩行者たちは、もう8割方がマスクを着用していない。市内の公共の交通機関、バスや地下鉄では未だにマスク着用が義務付けられているものの、現在ではマスクなしの人々の姿も増えてきている。

 特に一目で観光客とわかる人々は、マスクをしていないことが多い。これは過去にも何度も書いてきたように、政治的な背景とセットになっている。

 民主党が多数のニューヨーカーたちの多くは、未だに生真面目にマスク着用ルールを守っている。その反面、共和党支持者が多数の保守派の州では「個人の権利の侵害」を理由にマスク着用、ワクチン接種に対する反発が大きい。これらの保守派の多くの州では感染者がもっとも増えたパンデミックピーク時でも、ついにマスク着用を義務化しないまま終わった。そのような土地柄から来た観光客に、今更マスク着用を義務付けしても、なかなか難しいのが現状だ。

ブロードウェイがマスク義務化をやめた理由

 独立記念日を控えた今年の7月1日、ブロードウェイシアターではマスク着用義務を解除し、劇場内でのマスク着用は「個人の選択」となった。

 その一方でクラシック音楽の殿堂カーネギーホールや、メトロポリタンオペラハウスも含むリンカーンセンターなどでは、未だに入場時にワクチン証明書の提示と、マスク着用が義務付けられている。開演直前にはアナウンスもされ、会場係たちが通路を歩いて、マスクを顎まで下げているお客には注意を促すという徹底ぶりだ。

 同じニューヨークの劇場なのに、このようにポリシーが分かれたのはなぜなのか。それは、ターゲットにする客層の違いだ。

 ブロードウェイは劇場数も多く、「ライオンキング」「オペラ座の怪人」など、何年もロングランを続けている作品も少なくない。話題の新作が出てくればニューヨーカーも一度は見に行くが、何年も続くロングランのメインターゲットはあくまで観光客なのである。

 中間選挙を控えて民主党と共和党の支持者数が拮抗しているで、全米各地から集まって来る観光客の半数は、共和党支持者と考えて間違いない。家族連れなども多いブロードウェイにとって、できるだけ観光客を呼び込むための間口を広げておきたいのだ。

 その一方、カーネギーホール、メトロポリタンオペラハウスには観光客ももちろん来るが、メインの顧客は地元の音楽ファンたちである。その多くはコンサート、バレエ、オペラなどを前売りのサブスクリプション(複数の公演をパッケージで販売するシステム)で購入し、定期的に通う常連たちだ。音楽に造詣が深い知識階級の人々が多く、ブロードウェイに比べると年齢層も若干高い。クラシック音楽の劇場にとっては、これらの常連たちが安心して集まって来られる環境を保つことが最優先なのだ。

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