2021年6月1日は、ニューヨーク市で1年数か月ぶりに新型コロナウィルスによる死者がゼロという日になった。
ニューヨークで新型コロナワクチンの接種が始まってから、およそ半年。6月初頭現在ニューヨーク市の成人の57%が、2度のワクチンの接種を完了させている。
新型コロナウィルスの感染率も0.8%まで下がり、デブラシオ市長は「これはワクチンの効果の証明。ニューヨーカーたちが、この危機を乗り越えるために正しいことをしようという強い意志を持って、ワクチンを接種した結果にほかならない」とコメントした。ニューヨーク州は、地下鉄など公共の交通機関などごく一部を除いて、ワクチン接種が終了した人を対象に、屋外、屋内ともにマスク着用の義務付けを解除した。
とはいえ筆者も含め、まだまだ外出時にマスク着用を続ける人々も少なくない。それでもパンデミックがピークだった昨年の、見知らぬ他人を極力避けるピリピリした空気は、もはやなくなった。
一時はゴーストタウン化したニューヨークも、ワクチンの接種率の上昇に平行して、順調に正常化しつつある。
ニューヨークの地下鉄24時間運行再開
5月17日には、ニューヨーク市の地下鉄が24時間運行を再開した。驚いたことに、1904年に開通してから、昨年5月に午前1時から5時まで閉鎖されるまで、ニューヨークの地下鉄はずっと24時間運営してきたのだという。フランク・シナトラの名曲「ニューヨーク・ニューヨーク」に、「この眠らない街で目覚めたい」という歌詞があるけれど、まさにニューヨークの動脈である地下鉄システムは、パンデミック前まではずっと休むことなく動き続けてきたのだという。
アンドリュー・クオモ知事が、今年の2月に地下鉄の閉鎖時間を午前2時から4時までに短縮したとき、もしかするとずっとこのままになるのではないか、と思った。だがニューヨークには、午前2時と4時の間に仕事のために移動しなくてはならない人々もいるのが現実だ。「眠らない街」の伝統はしっかり守られ、およそ1年ぶりに24時間運行が再開したのだった。
ブロードウェイは9月から
1年前の写真を見ると、すっかり無人のゴーストタウン化していたタイムズスクエアだが、現在では再び観光客たちで賑わっている。
5月の後半から、美術館、レストラン、フィットネスジムなどの人数制限を解除。ブロードウェイのショーも9月から入場人数の制限なしで再開されることになり、すでにチケット販売も始まった。人気ミュージカル「ハミルトン」などは、パンデミック前は高いプレミアムがついて一般人には高嶺の花だった。早くも9月のチケットはほとんど売り切れているが、価格の方はまだ正常範囲内で、見るなら今しかチャンスはないと筆者も11月のチケットを抑えた。
またレストランは多くの店が閉店してしまった中で、生き延びた店は屋内飲食が禁止されていた間に歩道や車道の一部にアウトドア用の屋根付きテラス席などを設置。デブラシオ市長は、これらのアウトドアダイニングの許可を、パンデミック後も当分継続させると発表した。これらのアウトドアダイニングは、マンハッタンの新たな風物になりつつある。
満ち潮のように人が戻ってきている
こうしたニューヨーク経済の復活と共に、一時は郊外や実家に引っ越して減少していた人口が、再び市内に戻ってきているという。
「ロックダウンの全面解除と共に、ニューヨークには人が戻ってきています」大手不動産会社コルコランのシニアブローカー、サンティアゴ・スティール氏はそう説明する。
「まるで満ち潮のように、人の流れが戻ってきているのです」
一時はアパートメントの空き物件はマンハッタンだけで1万件と言われ、家賃の相場も暴落したが、現在は価格はほぼパンデミック前まで回復。手ごろな物件には、対応しきれないほどの問い合わせが来るという。
その一方、商業用物件はまだまだ回復に兆しは見えていない。在宅勤務が続いていた中で、家賃の高いマンハッタンのオフィススペースを閉めた企業も少なくないからだ。
「居住用よりも、商業用物件の埋まるスピードはかなり遅い。現在、商業スペースの占有率は、20%くらいです」とスティール氏。だが7月から、在宅勤務を終了し、会社での通常業務を再開する企業も多いという。かつての中央郵便局の巨大な建物をリースしたFacebookマンハッタンオフィスも、7月15日からいよいよ社員の通常出勤を開始する。