次期総統候補として警戒か
中国が今回、ここまで神経質になるのは、先月末、スペイン・マドリードで開かれた北西洋条約機構(NATO)首脳会議で、ロシアと並んで各国から強い警戒感が示されて孤立化しつつあることにある。この会議には、岸田文雄首相、韓国の尹錫悦大統領も出席した。
加えて、頼氏が次期2024年総統選の民進党有力候補に擬せられていることも理由のひとつだろう。頼副総統は、22年1月、中米ホンジュラスのカストロ大統領の就任式に出席、同席した米国のカマラ・ハリス副大統領と短時間あいさつをかわした。台湾への帰途、米国に立ち寄り、ペロシ下院議長と会談するなど、存在感を増している。
中国は最高指導者ではなくとも、「中台分離を図る」などと自ら判断した人物の行動には徹底的に干渉するのが常とう手段。故・李登輝元総統の生前、退任後であり、しかも病気治療などが目的であったにもかかわらず、常に氏の来日に反対、日本側にも抗議を繰り返してきた。
「ご指摘の人…」は外務省の統一見解か
一方、今回の中国の反発に対する日本側の反応をみると、まさに残念というほかはない。
外務省は、中国側から抗議の申し入れがあったことは認めたが、詳しいやりなどについての説明は避けている。
林外相は7月12日の閣議後の記者会見で、頼副総統の来日について質問されて「いま、ご指摘のあった人物は、葬儀に参加するため、あくまで私人として私的に訪日をされていると承知をしている」「台湾との関係を非政府間の実務関係として維持するという基本的立場に何ら変更はない」と答えた。
「ご指摘のあった人物」――。あたかも不祥事や犯罪を起こした張本人であるかのようなモノ言い、響きではないか。
林外相がうっかり口を滑らせたのかもしれないと思ったが、翌日の小野日子外務報道官の会見でもまったく同様の表現がとられていた。外務省の統一見解なのだろう。
中国に気を遣って「副総統」という表現を避けるにしても名前はあるのだから、「頼清徳氏」と呼んで何が悪いのだろうか。せめて「ご指摘の方」というくらいの表現もできたろう。それもおかしいが。
まるで中国側の恫喝に怯え、〝あつものに懲りてなますを吹く〟の類だが、単に外務省高官の国語力の貧弱さが原因で、悪気がなかった方がどれほどよいか。
「ご指摘の人物」よばわりを台湾の人々が聞いたら何と思うだろう。日本勤務経験の知日派外交官に聞いてみたが、苦笑いだけが返ってきた。