つくづく〝厄介な隣人〟だ。
安倍晋三元首相の葬儀へ台湾の頼清徳副総統が参列したことに中国がねじ込んできた。
お悔やみに行くことにすら言いがかりをつけるのは人倫にもとるが、今に始まったことではないから驚くこともない。
情けないのは日本政府だ。
林芳正外相は記者会見で頼氏の名と肩書を使うことをことさら避け、「ご指摘の人物」というわざとらしい表現を使った。まるで犯罪者に対するようなモノ言いだが、こんなことで、まともに中国に対抗しようと考えているとしたら、おかしいというべきだろう。
私的弔問、政府関係者との接触なし
頼副総統は7月11日に来日、安倍邸を弔問。通夜に出席し、翌日、葬儀のあと離日した。副総統には、日本での台湾の窓口、台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(大使に相当)が同行した。
この間、日本政府関係者らとの会談、接触はいっさいなかった。台湾当局は「頼副総統のあくまでも私的な弔問」との立場で、頼氏の動向も把握していないとしている。
台湾での日本側窓口、日本台湾交流協会台北事務所も、安倍氏の急死という事情を踏まえ、個人的な親交なども考慮して個人的な訪問としてビザを発行したと説明している。
「中国は一つ、副総統など存在せず」
頼氏が離日した12日、中国外務省の汪文斌報道官は記者会見で、「安倍氏死去の不幸に乗じて台湾は政治的な策略をめぐらせても、成功しないだろう」と非難。日本側に対し、「厳正な申し入れを行った」ことを明らかにした。
汪報道官は、「台湾は中国の一部であり、いあゆる〝副総統〟など存在しない」とも述べ、あらためて「中国は一つ」であることを強調した。
頼副総統が日本滞在中、日本政府首脳と会談したり、政治的な動きをしたりしたというならともかく、日台双方とも、「一つの中国」の原則を厳格に順守し、お悔やみにきて終了後にすぐに離日しているのだから、何が不満というのだろうか。
報道官は、「台湾に〝副総統〟は存在しない」と言っている。それなら、中国から見た場合、頼副総統はどういう存在になるのだろうか。台湾省という一地方の高官か、ただの地方市民か。
いずれのケースにしても、台湾は中国の一部だというなら、台湾の人は、高官であろうと一般人であろうと、〝中国の市民〟になるはずだ。中国の市民が、他国の友人のお悔やみに行くことに何の不都合があるのかと中国に問いたい。
〝村八部〟という過酷な制裁が一般的だった大昔の日本ですら、火事と葬儀の時だけは例外にする配慮があった。中国にはそうした情けすらないようだ。