2022年12月3日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年7月9日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

 シンゾウ・アベの名前は、日本の政治家には珍しく米国ではよく知られた存在だ。その安倍晋三元首相が銃撃を受け、死去されたというニュースは大きな衝撃をもって受け止められた。第一報の時点では米国東部時間では既に木曜日の深夜に近かったが、直後からニュース専門局のCNNは「緊急ニュース」体制となり、このニュースだけを繰り返し報じていた。

(ロイター/アフロ)

 現地時間の金曜日になると、既に早朝の時点で逝去の報道が入っており、扱いはさらに大きくなった。地上波にあたる3大ネットワークでは、例えばNBCの場合、朝7時からのニュース「トゥディ」でも、同日夕刻6時半の「ナイトリーニュース」でもトップ扱いであった。

 新聞(各紙電子版)でも金曜日はほぼ終日トップ扱いが続いたし、政治サイトは右から左まで事実関係を中心にこのニュースをトップに掲げていた。金曜日の後半になると、初期段階の論評が見られるようになった。主として、安倍晋三元首相と安倍政権に対する評価である。

米国が見る安倍晋三氏への3通りの評価

 その評価であるが、大きく分けると3通りに区分できる。

 第1のパターンは、安倍政権が日本の西側同盟における位置を確固たるものとし、同時に日米同盟の安定化に寄与したという評価である。教科書的な理解ではあるが、ウクライナ情勢や米中関係など、2010年代までには見られなかったような危機が続く中で、西側同盟の結束の重要性は改めて重くなっている。そう考えると、安倍政権の遺した成果については、米国として改めてその重さを痛感していると思われる。

 第2のパターンは、安倍晋三氏という政治家への評価である。第二次政権だけを取っても、バラク・オバマ政権、ドナルド・トランプ政権という全く異なる政権と、どちらも良好な関係を構築し、しかも外交的な成果を出したというのは、奇跡的という評価がある。

 まずオバマ政権との間では、懸案となっていた日米相互献花外交、すなわちオバマ大統領(当時)と共に、広島における原爆慰霊碑への献花、そして日を改めてハワイ・オアフ島の真珠湾におけるアリゾナ記念館への献花を行い、先の大戦の犠牲者への慰霊を共に行うことで、両国の歴史和解の象徴的な行事を実現している。

 これは首脳同士の個人的な信頼関係がなければ出来ない相談だ。一見すると知的で理想に走りがちなオバマ氏に対して、現実主義者で保守派からの支持のある安倍晋三氏という異なった個性の両名である。その両名が、下手をすれば自国世論から異論の出かねない行動を共にするに至った、その絆の深さについては、改めて評価の声が上がっている。

 更に評価の高いのは、ドナルド・トランプ前大統領という極めて特異な政治家に対する対応である。対応を誤れば日米関係だけでなく、東アジアの軍事外交の均衡を崩してしまう中で、安倍晋三氏が綱渡り的ではあるが周到な外交を繰り広げたことである。

 大統領就任前のトランプ前大統領は、「日本と韓国の駐留米軍について駐留費を全額負担するよう要求し、断られたら米軍を引き上げるが、その場合は日本と韓国に核武装を認める」という日米関係の根幹を破壊しかねないような圧力をかけていた。

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