2023年1月27日(金)

バイデンのアメリカ

2022年8月4日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 ロシア軍側はこのほか、南部、東部のいくつかの前線においても、兵員および兵站物資の追加投入が足踏み状態になっていることなどが報告されている。

だからこそ気になる中国の動き

 このように最近になって、ロシア軍にとって、ウクライナにおける戦局が当初の目論見通り進んでいない背景として、①西側諸国による経済制裁によりロシア国内経済への影響がじわじわと広がり始めている、②米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)諸国によるウクライナ軍に対する近代兵器供与が威力を発揮しつつある、③ドイツをはじめ欧州諸国の対露エネルギー依存度が低減してきた結果、ロシア側の戦費調達にも影響が及び始めた――といった点が考えられる。

 また、中国としてもこれまで、世界世論を敵に回すことを恐れ、ウクライナ戦争でロシア軍に一方的肩入れをすることには、慎重姿勢を貫いてきた。

 しかし、こうした矢先、米国務、国防総省当局者の間では、中国の事前の厳しい警告にもかかわらず、ペロシ下院議長の訪台が強行されたことから、中国側が今後、米国に対する報復の形でロシアへのこれまで以上の軍事支援に乗り出すのではないか、との懸念の声が上がり始めていると伝えられる。また、その結果、ウクライナ軍が再び苦境に立たされる可能性も否定できない。

 このため、バイデン政権としては、早急に中国との関係修復に乗り出す必要に迫られてきており、すでに、ワシントン政界では、対面によるバイデン・習近平首脳会談の早期開催の観測も出ている。

 もし、会談が実現した場合、バイデン大統領としては、習近平主席に対し、米国の「一つの中国」外交政策が不変であり、台湾の独立を決して支持しない姿勢を改めて強調するとともに、世界にとって当面、最大の問題となっているウクライナ戦争早期解決のためにも、対露軍事支援を踏みとどまるよう、改めて説得するものとみられる。

米議会内では超党派で同調も

 また、ペロシ下院議長が今回、台湾訪問を決断したそもそものきっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻という蛮行と時を合わせるかのように、中国側が台湾海峡、南シナ海方面において、軍用艦、作戦機によるプレゼンスを高める動きを見せてきたことと関係がある。

 このため、ペロシ議長は、ワシントン・ポスト紙への寄稿の中で、台湾訪問の目的について「中国が最近、台湾に対する挑発的行為を加速させてきたことに鑑み、米国民は民主主義パートナーとしての台湾の防衛と自由を守るというメッセージを送るため」とし「特にロシアのウクライナ侵攻により、切迫した問題となった」と説明していた。

 さらにこの点では、ミッチ・マコーネル院内総務以下、野党共和党上院議員20人が、同調姿勢を見せるなど、米議会は珍しく超党派でペロシ訪台を支持したことも見逃せないだろう。

 結局、ペロシ訪台でにわかに高まった今回の米中間の緊張は、中国側にとって〝身から出た錆〟ということになる。

 
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