2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年8月19日

チリやコロンビアと異なる4つの事情

 こうした状況につき、ウォールストリート・ジャーナル紙のオグラディによる7月24日付けの論説‘Is Panama Next for a Hard Left Turn?’は、パナマの抗議活動は過激な左派活動家に扇動されており、これを放置すればチリやコロンビアのような急進左派への政権交代になりかねない、との懸念を提起している。この論説が懸念するようにパナマもチリやコロンビアのような過激な左傾化現象が起こるのかについては、以下のようなパナマの特有の事情も念頭に置く必要があるであろう。

 第1に、チリやコロンビアで右派に代わって政権をとることになった極左政党や左派の有力政治家が現在パナマには見当たらない。

 第2に、1990年以降の堅実な経済成長に貢献したパナマ運河については、その運河の効率的運用のため憲法上自治的な運営が確保されており、今後とも安定した収入源となることが見込まれる。

 第3に、パナマは、チリやコロンビアに比べ国土も人口も小さく、何らかの改革もやりやすい面もあるのではなかろうか。

 そして第4に、現職大統領は、右派ではなく中道左派であり、次の選挙までには時間があり政権と抗議グループの対話により問題が収拾する可能性もある。

 しかし、今後とも従来のようななれ合いの政治が続くとすれば、過激な左派指導者や極右のポピュリストが台頭する可能性も排除できない。現政権としても単に補助金の増額や物価統制だけでなく、この機会をとらえて汚職防止や社会的給付の充実など、国民の声を政治システムに反映させるような仕組みや構造改革を考えるべきであろう。

 なお、パナマ経済は、経済活動の再開と運河からの増収で早期の回復が期待されていたが、今次騒擾に対する対応で増大する支出は、今後必要な年金制度の改革や当面の経済展望にもネガティブな影響を与えることが懸念される。

   
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