マルクス主義の、資本と人が対立するという発想は誤っている。対立するのは人と人に過ぎないのだから、正社員の特権が縮小すれば正規と非正規社員との差別がなくなる。損をするのは正社員で、資本が損をする訳ではない。正社員は、これまですでに雇われている人に多く、非正規社員は最近雇われた人、これから雇われようとする人に多い。だから、正社員の特権剥奪は、世代間格差の是正にもなる。
そうすると、準正社員のような中途半端な提案は止めた方がよい。解雇自由の結果は、正社員の雇用流動化、一般的には賃金の下落、一部の人には雇用保障がなくなることによる賃金の上昇が起きる(外資系は雇用保障がないと思われていることで賃金が高い)。雇用が拡大するので、非正規社員も得をする。資本が得をする訳ではない。
しかし、解雇自由の原則を貫こうというのは、民間企業の正社員の既得権を奪うことである。ここで、なぜ、民間企業の正社員の既得権だけを奪うことが正当化されるのかという問題が生じる。公務員は解雇されない。天下りも残っている。日銀総裁も、デフレ脱却ができなくても解雇されない。TPPに参加すれば農産物価格が下がるから、下がった分を税金で補償すると議論している(朝日新聞13年3月23日)。これまで生産性の低いやり方で生産していた既得権は認めるということである。年金も絶対の既得権だ。
また、経営者は格段に楽になる。今まで、正社員は首にできないので、無理やり仕事を作ったり、子会社に押し込んだり、苦心惨憺していた。なんで経営者だけ楽になるのか。国会議員は選挙に落ちれば首だから、これは許せるが、それ以外は許せない。どうして民間企業の正社員だけ犠牲にならなければならないのか、となるだろう。
既得権者は平等に扱うべき
さらに、非正規が増えていると言っても、まだ35%である。また、正社員の妻である非正規社員も多い。彼女たちも解雇自由の原則に反対だろう。正社員の特権を支持する人が圧倒的に多いのだから、そう簡単に雇用制度を改革できない。
もっとも、解雇が自由でないのは大企業だけで、中小企業では解雇自由が現実だとも言われている。大企業の労働組合に支えられれば、解雇権濫用を訴えて、何年でも法廷闘争が可能だが、中小企業ではそんな余裕もない。解雇権濫用で守られているのはごく一部の労働者だけである。しかし、政治的に力があるのは、日経や朝日を読んでいる正社員たちだから、その人たちを無視して政治を進めるのは難しい。