依然として化石燃料に依存している途上国は、化石燃料価格の上昇により大きな影響を受けた。途上国(非OECD)諸国の一次エネルギーに占める化石燃料の比率は86%あり、石炭が最大シェア36%を持つ。世界でも石油、石炭、天然ガスのシェアは80%を超えている(図-2)。だが、石炭を初め化石燃料への投資削減を主導した国際機関、金融機関には、途上国を停電に追い込み食糧価格を上昇させたとの思いは全くないようだ。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、6月15日「化石燃料への新規投融資は危険だ。戦争、汚染、気候変動の災難を拡大するだけだ」とツイートした。温暖化問題が頭にあるようだが、化石燃料不足により停電と食糧危機に追い込まれる途上国のことは頭にないのだろうか。
価格上昇が引き起こす燃料不足と停電
ロシアからの天然ガス供給量が減少しているEU諸国は、米国からの液化天然ガス(LNG)輸入量を増加させている。今年と昨年の4月以降のLNGとロシアからの天然ガスの供給量の推移は図-3の通りであり、ロシアの供給量の落ち込み分をLNGが埋める形になっている。ノルウェーからの供給量増加もあり、EUの輸入量は前年とほぼ同じレベルで維持されている。
ロシアからの供給を代替するため他供給国への需要量が増加し、大きな価格上昇が引き起こされている。7月月間平均価格では、日本向けLNG価格の3倍を超えている欧州向け天然ガス価格は、8月に入ってからも上昇を続け、8月中旬時点では、日本向けのほぼ4倍に達している。
この天然ガス価格上昇により、天然ガスの購入ができなくなった途上国も出てきた。パキスタンは欧州のトレーダー2社とLNGの長期契約を17年に締結したが、昨年10月以降今年6月までの間に売り手は12船以上の積み荷をキャンセルしたと、ブルームバークは伝えている。キャンセルの理由は価格にあるとも報じられた。
パキスタンの長期契約価格は百万BTU(英国熱量単位)当たり12ドルと伝えられており、現状の欧州向け価格50ドルの4分の1程度だ。一方、契約価格を抑えるため、売り手が一方的に船積みをキャンセルした場合に支払うペナルティー額を価格の30%と通常の契約との比較では低く設定している。
売り手は、長期契約の船積みをキャンセルし欧州市場で売却すると利益が大きくなるので、長期契約を履行せずスポット市場で売却をしている可能性もありそうだ。LNGの不足に見舞われたパキスタンでは計画停電が実施されることになった。LNGの入手が難しくなったのはパキスタンだけではない。
停電に追い込まれる途上国
今年3月21日、バングラデシュのハシナ首相は首都ダッカの南200キロメートルに完工した132万キロワット(kW)の石炭火力発電所の開所式に出席していた。この完工によりバングラデシュは、南西アジアではインド、パキスタンに先駆け電化率100%を達成した。首都ではお祝いの花火も打ち上げられた。
7月上旬、バングラデシュでは停電が各地で発生した。地域によっては酷暑の中、1日の内5、6時間しか電力供給されない事態となり、抗議のデモも行われた。発電設備はあるが、燃料が不足し停電が引き起こされたのだ。天然ガス生産国バングラデシュでは発電量の51%を天然ガス火力が供給しているが、国内天然ガス生産量の落ち込みに伴い輸入LNGが需要量の20%を供給するようになった。
LNG価格が上昇したが、外貨準備に問題があるため、銀行が支払いに必要な貿易信用状をタイムリーに開設できなくなった。LNG輸入が滞り、停電した。エアコン温度設定を25度以上にすること、イベントを午後7時以降開催しないこと、モスクのエアコン使用量の抑制などの節電策が打ち出される一方、7月19日から輪番停電が実施されている。