2024年4月26日(金)

World Energy Watch

2022年8月19日

 停電解消策として期待されているのは、9月に運転を開始する120万kWを初めとする合計300万kWを超える建設中の石炭火力発電所だ。しかし、石炭の価格も大きく上昇した。日本ではカロリー当たりの単価では石炭がLNGを上回っている。燃料価格が上昇した石炭火力も停電解消の助けにならないだろう。

 化石燃料価格上昇の原因の一つは、化石燃料に対する投資額の減少が引き起こした供給量の減少だ。化石燃料供給量の削減は温暖化対策の目玉とされ、機関投資家、金融機関は石炭を筆頭に化石燃料企業、発電プラントへの投融資から撤退した。化石燃料を嫌った投資家、金融機関は今途上国が直面している状況をどう見ているのだろうか。

原因は国連事務総長の発言と投資家や金融機関

 化石燃料への投資を嫌うグテーレス国連事務総長は、6月17日「化石燃料業界は数十年に亙り、気候変動に関する自らの責任を最小化し、野心的な気候変動政策を実らせないため虚偽の物語で以て、似非科学と広告に投資してきた。大手たばこ企業が数十年前に行った恥ずべき戦術と同じことを行っている」とツイートした。

 多くの機関投資家も事務総長と同じ考えを取り、環境、社会、企業統治(ESG)の観点から、化石燃料事業、企業への投資からの撤退を表明した。世界銀行、欧州復興開発銀行などの国際金融機関を筆頭に大手金融機関は、石炭火力発電所建設への融資を行わないことを決めた。

 化石燃料関連投資からの撤退を表明した機関投資家などは1500を超え、依然として増え続けているとされる。投資家、あるいは金融機関の立場からすれば、化石燃料あるいは関連設備への投融資を見送るのは理に適っているのだろう。化石燃料の需要は、温暖化の観点からいつ先細りになり、収益を生まなくなるか分からない。石炭火力発電所もいつまで運転可能かはっきりしない。

 投資額とリターンを考えれば、リスクが高く割に合わない。例えば、米国の石炭産業では、16年に当時全米2位のアーチ・コールが破綻し更生法を申請したが、破綻直前の同社の社債価格は額面の100分の1以下まで落ち込んだ。

 投融資を見送る判断により、15年のパリ協定合意後化石燃料への投資額は減少し(図-4)、エネルギー危機の一つの原因になった。ESGの観点で投融資を見送ることは、世界のエネルギーの6割を消費する途上国(図-5)が化石燃料を依然として必要とする以上正しいとは言えないだろう。たばこ産業と化石燃料産業を同じ括りで判断するのは間違いだ。


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