化石燃料供給削減は世界の分断も大きくする
天然ガスを原料とするアンモニア価格も大きく上昇している。米エネルギー省のデータでは、国際市場に左右されるアンモニア価格は、米国でも過去2年間で約6倍に値上がりした。
アンモニアを原料とする肥料価格も上昇し、途上国では必要な量の肥料を輸入できなくなるともみられている。来年以降の農産物の生産に影響がある。エネルギー価格上昇が、食糧生産にも影響を与える。
先進国の機関投資家、金融機関が化石燃料への投融資からの撤退、あるいは見送りを行っている間、中国は途上国の石炭火力発電所建設に支援を行っている。先に述べたバングラデシュで運転を開始した石炭火力発電所は、最新鋭の超々臨界圧プラントだが、建設を行ったのも資金を提供したのも中国だ。
欧州が引き取りを止めたロシア産石炭、あるいは石油は、途上国に市場価格より安く販売される可能性もある。既にインドは安く原油を購入している。先進国の投資家と金融機関が行わない化石燃料関連設備と燃料供給を中国とロシアという専制国家が担うならば、途上国を専制国家側に追いやり、世界の分断は広がることになる。
温暖化問題を旗印に掲げる国連をはじめとした国際機関、先進国の投資家と金融機関は世界の分断を拡大しているのではないか。途上国には今日の食事、明日の電気という切実な問題がある。米エネルギー省は、技術革新を見込まないベースケースでは、今後も途上国の石炭消費量は増加すると予測している(図-6)。
先進国は、温暖化対策として化石燃料の供給削減ではなく、消費量と二酸化炭素排出量抑制の策を考えるべきだ。ドイツは脱原発を中止し(ドイツの脱原発が世界に迷惑をかけるこれだけの理由)、日本は原発の再稼働を行えば化石燃料消費削減に貢献でき、途上国を助けることができる。早く実行すれば、世界の分断を少しでも防ぐことにつながる。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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