2024年4月26日(金)

食の「危険」情報の真実

2022年9月1日

 学校給食で有機食品を増やしていけば、その普及過程では当然ながら、教師や栄養士は子供たちに向かって「有機食品は安全で健康によい。農薬や食品添加物は避けましょう。ゲノム編集食品は安全かどうか分からないので買ってはいけない」といったオーガニック信仰を教えていくことも起こり得る。

〝反科学っ子〟を生み出し続ける懸念

 たかが学校給食と侮ってはいけない。『給食の歴史』(岩波新書)などの著書で知られる藤原辰史・京都大学准教授は「料理通信」(4月21日)で「給食は社会を変えていく装置として機能する可能性が大いにありますし、現にフランスの給食は地域おこしとエコロジーと教育がセットになっているところがあります」と述べている。

 卓見である。学校給食で教師と子供たちが「有機農業は善で、ゲノム編集や農薬、化学肥料は悪」といった価値観や思想を学べば、大人になっても、その思想を持ち続けるだろう。

 そういうオーガニック信仰をもった教師や子供たちを大量に育てていくことが学校給食のオーガニック化である。国による有機農業の推進は、有機農業を推進する市民グループの活動拠点を国が後押しするようなものである。考えただけでもぞっとするのは筆者だけであろうか。おそらく全国100カ所のオーガニックビレッジ(自治体)の学校給食はオーガニック信仰の発信拠点となるだろう。

 有機農業は技術体系だけの伝承なのではない。それが生み出す思想がセットになって次の世代に引き継がれていく、いわばイデオロギー装置である。

 「みどりの戦略」が実現し、100万ヘクタールの有機農業面積が達成された暁には、どんな教師や子供たち、親が育っているのだろうか。「無添加で安全安心」とオーガニック信仰は相思相愛の仲である。その相思相愛の人たちが農水省の中に存在することが、冒頭のトマト製品の特集を生んだのである。

 農水省は「有機農業の推進」に本気である。このままだとオーガニック信者は拡大するだろう。農薬や化学肥料の有用性を否定し、遺伝子組み換え作物やゲノム編集食品に反対する100万人もの〝反科学っ子〟(オーガニック信者)が生まれないことを祈るのみである。この予測が筆者の妄想に終われば良いのだが……。

 
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