農水省が「無添加」宣伝に共感した可能性
これは農水省の見落としミス(チェック不足)ではない。「aff」の広報誌の最後を見てみよう。
問い合わせ先として、大臣官房広報評価課広報室が掲載されている。大臣官房は農水省の総元締めである。この広報誌は、農水省が国民に伝えたいメッセージを詰めた重要な広報媒体である。たとえ民間会社が編集協力したとはいえ、記事掲載前の段階で農水省が入念にチェックしたことはいうまでもない。
筆者が気になるのは、複数の官僚が何度もチェックしたはずなのに、「無添加は安全」や「保存料不使用」といった表示がすんなりとパスした事実だ。これは違反に気付かなかったというよりも、むしろ共感を示していたからだと思う。それゆえに、ツイッターの投稿でその気持ちを表現したのである。
ツイッターの投稿は官僚一個人が勝手に行えるものではない。上司などの了解を得て投稿しているのは間違いない。だとすれば、目を通したはずの複数の幹部官僚が「無添加で安心安全」という記述に違和感を覚えていなかったことがうかがえる。
言い換えると、今度の修正劇は、「無添加で安全安心」や「国産は安全」といった価値観をもつ人たちが農水省の中に一定数、存在するという事実をはっきりと示したと筆者は見る。
敵は身内にいる
そのことは、農水省の組織からも分かる。農水省は総元締めの大臣官房のほか、農産局、消費・安全局、輸出・国際局、畜産局、経営局、農村振興局などから成る。
たとえば、残留農薬やゲノム編集食品などのリスクを科学的に伝えるリスクコミュニケーションの担当部署は消費・安全局にある。これに対し、有機農業を推進する部署は農産局にある。無添加や有機農業、国産食品を推進する部署と科学的なリスク伝達を担当する部署ではその行動論理やリスク観はかなり異なる。
農水省は決して1つの思想や価値観、利害関係に統一されているわけではない。
具体的な例を挙げよう。筆者が毎日新聞の記者時代の話である。かつて、農水省農林水産技術会議が遺伝子組み換え稲を家畜の飼料用に栽培しようと頑張ったときがあった。国産の組み換え稲が栽培されれば、飼料の自給率アップにもなり、画期的な構想だと思った。
しかし、そのとき、その計画に抵抗を示したのが、なんと同じ仲間のはずの農水省畜産局だった。敵は身内にいたのである。
もちろん、当時はちょうど旧民主党政権が誕生し、遺伝子組み換え作物の計画や予算にことごとく反対したという事情もある。農水省の実情をよく知らなかった筆者はてっきり農水省の組織は「国産の組み換え稲を栽培しよう」という目標で一致しているものとばかり思っていたが、そうではなかったことが分かり、驚いた記憶がいまも鮮明に残る。