2022年9月27日(火)

食の安全 常識・非常識

2022年8月25日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 ツイッター(Twitter)の農林水産省公式アカウントが、添加物を危険視する投稿をしたと批判され8月12日、投稿を削除しました。投稿の元になった農水省広報誌aff(あふ)2022年8月号の記事も同日、4カ所にわたって修正が加えられました。

(Olesia Shadrina/gettyimages)

 朝日新聞が「添加物を危険視?農水省のツイートや広報誌記事、指摘受け修正・削除」と報じ、yahooニュースとしても流れたのですが、記事には1000件以上のコメントが付いており賛否両論。「誤ったメッセージを流した」などと農水省に反省を促す人たちがいる一方で、「添加物は危ないのに……」「業界の圧力に屈して削除したなら、食品行政への信頼をむしろ損なう」など、削除修正を批判する人たちも少なくありません。

 この話、どう考えるべきか? 私は、農水省の深刻な課題があらわになった、と思うのですが、話がけっこう複雑なので、多くの人がどうも表層的にしか理解していないようです。解説します。

「無添加だから安心」とも解釈できる投稿

 騒動の元になった農水省広報誌あふ2022年8月号では、トマトの加工品が特集されていました。問題となった記述とTwitterにおける投稿は次のとおりです。

(注)画像は一部加工を加えております 写真を拡大
(注)画像は一部加工を加えております

 広報誌の記事では、生産者の開発コンセプトとして『香辛料を控え、保存料や着色料などの食品添加物を一切使わない安心安全なケチャップということで「こどもケチャップ」と命名しました』という言葉が紹介されています。これを元に8月10日、農水省がTwitterで「香辛料を控え添加物を使用しない、子供でも安心して食べられるケチャップをに作りたい!という想いで作られたそうです。」と紹介しました。ケチャップをに作りたい、になっていますが、これはケチャップを作りたい、のタイプミスでしょう。

 ところが、Twitterで批判が沸き起こりました。私も11日、Twitterに「農水省がこんなことを書いちゃダメ」と投稿しました。

 私がもっとも気になったのは、広報誌に掲載された生産者の「安全安心なケチャップ」という言葉が、Twitterで「子供でも安心して食べられるケチャップ」になっていたところです。安全という言葉が、意図して抜かされていたのです。

 安全は科学的な根拠に基づいて検討すべきものです。しかし、安心は心情を表現する言葉。よく安全安心と一括りにして使われますが、同じ意味ではありません。

 そして、食品添加物の使用は安全を損なうものではありません。なぜならば、食品添加物は安全性について科学的な評価を経て、厚生労働省が使用方法や使用量等のルールを決めています。正しく使われていれば安全の懸念はありません。

 しかし、科学的にはそうであっても、心情として信用ならない、安心できない、という思いを持つ人もいるでしょう。そう考えて生産者が「無添加だから安全安心」と口にするのも自由です。でも、それをそのまま農水省が広報誌で紹介するとなると話は別。農水省も「添加物を危ないと思っているのね」と読者に受け止められてしまいます。

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