2024年11月22日(金)

食の安全 常識・非常識

2022年8月25日

 もしかすると、農水省のTwitter担当者は、この安全と安心の区別をわかっていたので、問題になりそうな「安全」という言葉は抜いて責任を逃れ、「生産者の思ったことだから」と言い逃れできそうな「安心」だけにしたのではないか……。そんなことを考えました。

消費者庁の方向性と異なる無添加記述

 しかし、Twitterの投稿により批判に火がつき市民団体などからも意見書が出たようです。農水省は8月12日、広報誌4カ所を修正。これに伴い、Twitterに「本誌内容を訂正いたしましたので、元Tweetを削除いたしました。大変失礼いたしました」と投稿しました。

 Twitterで問題になった生産者のコメントは、『香辛料を控え、お子様でもおいしく食べられるものを作りたいという想いで「こどもケチャップ」と命名しました』に修正され、安全安心が消えました。他の3カ所の修正も「無添加」についてのものです。

 農水省広報室に尋ねたところ、「消費者庁の『食品添加物の不使用表示に関するガイドライン』で、健康・安全と関連づけられる無添加・不使用表示が『誤認させるおそれがある』として挙げられるなどしています。国の省の広報誌として読者に誤認を与えてしまうおそれがある、と判断し修正しました」と説明されました。生産者のコメントの修正については、生産者に説明し詫びて了解を得て修正したそうです。

 では、消費者庁のガイドラインとはどういうものか?

 近年、食品のパッケージででかでかと「無添加」「人工着色料不使用」「化学調味料不使用」などとうたう製品が目立っていました。わざわざ書かれると、やっぱり食品添加物は悪いものなのね、と思うのが人情です。令和2年度の消費者庁の消費者意向調査でも、そうした製品を購入すると答えた消費者の66.0%が「安全と感じるため」、52.8%が「健康に良さそうなため」という回答を選びました。

 食品添加物は安全性が評価されたもの、長い食経験があるとして国に認められたものが使用されていることを知らない消費者は59.8%に上りました。

 そのため、消費者庁は消費者団体の意見も聞いたうえで、食品表示基準に違反するおそれがある表示例などを示したガイドラインを2022年4月、策定しました。

 その中で、「安全であることの理由として無添加あるいは不使用を表示する」という事例について「実際のものより優良又は有利であると誤認させるおそれがある」などと説明しました。24年4月以降にガイドラインで示されたような表示の食品を販売した場合、食品表示基準違反として罰金などを課される可能性があります。

 消費者庁が「無添加」の表示にこれほど神経を尖らしている時に、農水省は広報誌で「無添加」を乱発し、しかも「安全安心」と表現する生産者の言葉をノーチェックで載せてしまいました。消費者庁と農水省は別組織ですが、同じ「リスクアナリシス」の考え方で、厚労省、食品安全委員会と連携して食の安全を守っています。

 実際のところ、この手の無添加礼賛は、女性誌の記事やウェブメディアなどに氾濫しています。農水省の広報誌もカラフルに、女性誌や育児雑誌に近い雰囲気を漂わせています。

農水省広報誌あふ2022年8月号のページ。カラフルに視覚に訴えるようにデザインされている。以前は紙の広報誌として発行されていたが、現在はウェブからダウンロードするようになっている。

 でも、中身も同じではダメ。国が、科学的な根拠に基づかない説を流してはいけないのです。


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