2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年9月23日

 ルーラの汚職問題について、ルーラ自身は政治的冤罪であるとしてこれを認めていないが、裁判所の管轄権という手続き上の問題で有罪判決が取り消されたもので、汚職疑惑自体について判断されたものではなく、ルーラにとっては弱みではある。

 他方、ボルソナーロの不人気の背景には、COVID-19対策の失敗を始め、憲法制度や民主主義を脅かし女性やマイノリティを蔑視する数々の暴言、アマゾンの熱帯雨林の破壊等に加えて、続く不況やインフレによる国民の失望と不満が厳然として存在している。唯一、ボルソナーロがルーラを上回るのがSNSの巧みな活用であり、油断はできないがこの劣勢を覆すことは難しいであろう。

 10月2日の投票でルーラが有効投票数の過半数を取れなければ、10月30日の決選投票となり、ボルソナーロがかなり追い上げ、かねて主張している投票システムに対する不信を理由に敗北を認めず実力行使に訴えるといった可能性も排除されない。そのような事態にならないよう、また有権者や官憲が同調しないことが望まれる。ルーラとしては、1回目の投票で決着するか、少なくとも10%以上の大差をつけることが、勝利を動かしがたいものとする上で望ましいであろう。

2人の候補の政策上の違い

 ルーラとボルソナーロの政策上の違いは明確で、ボルソナーロは、汚職対策の一環としても国営石油会社、国営電力会社、郵便電信公社の民営化を打ち出しているのに対し、ルーラは、これらの民営化には反対との立場である。

 外交政策では、ボルソナーロは、経済協力開発機構(OECD)加盟や国際通貨基金(IMF)等国際機関への関与を強調し新たな貿易パートナーや外国投資を求めることを主張しているが、ルーラのマニフェストでは、メルコスール、南米諸国連合(UNASUR)、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)等、ラテンアメリカ内部の統合や連帯の強化、BRICSの強化、「南南協力」(開発における途上国間協力)等が強調されている。

 ルーラ政権となる場合には、欧米等先進国との協調よりもラテンアメリカ諸国間の連帯やBRICSに軸を置くことが予想され、西側としては対ロシア及び中国とのパワーバランスの関係で留意が必要となろう。

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