2024年11月22日(金)

田部康喜のTV読本

2013年5月15日

 その晩、藤巻が自分のレストランのセラーから持ち帰ったワインである。藤巻はそのワインが最高級であったことを繰り返し、右京に主張するのであった。

 殺人現場が早々に藤巻のワインセラーである推定はついていたが、犯人を特定する決定的な証拠はなかった。状況証拠は、藤巻のコレクションのワインを抵当にしてカネを貸した社長が、藤巻に浴びた屈辱を晴らそうとして、借金の代わりにそのワインを手に入れようとしたのではないか、という推測である。

 ドラマは幕切れまで緊張感が途切れない。

 最終場面は、藤巻が主宰するワインの試飲会となる。

 右京があの夜、藤巻夫婦が飲んだワインがなんであったのかにこだわる理由が明らかになる。

 ソムリエに右京が密かに頼んで、試飲会に供したワインが事件を解き明かす。その微妙な味わいを判断できるのは、藤巻ひとりであった。そのことを誇るが故に、殺人事件の犯人が明らかになる。

コロンボシリーズの傑作へのオマージュ

 「あとひとつよろしいですか?」

 警視庁のキャリアから特命係に左遷されながらも、きちんとした身なりを崩さず、当庁後は高級なマイカップで紅茶を飲む。

 右京の決め台詞は、そうした風情とは対極にある、よれよれのレインコートをまとって、葉巻をくわえたベテラン警部の得意のセリフでもある。

 ピータ・フォーク演じる、コロンボである。「刑事コロンボ」シリーズは、日本で放映されたのは、1968年から一時中断をはさんだ2003年制作までのふたつのシリーズだった。

 シリーズ中の最高傑作のひとつといわれるのが、「別れのワイン」(1973年)である。

 ワイナリーの経営者が弟を殺害し、ワインセラーに死体を隠蔽する。経営者がアリバイづくりのために、ニューヨークに出張にでかけ、秘書が隠蔽に加担する偽の証言も得る。状況証拠はそろっている。


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