2024年7月16日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年9月30日

外交官個人の「感情論」と組織の「外交論」

 筆者は拙著『天安門ファイル』の「あとがき」でこう記した。

 「天安門事件は、リアルタイムかつ目に見える形で、中国共産党体制の強権的かつ閉鎖的な本質が表れた瞬間であり、日本政府や日本人にとって中国の民主化の限界を考える初めての機会だったはずである」。日本政府はその分水嶺を見誤ったのではないだろうか。

 結局、現場にいた外交官個人の「感情論」は、国家としての方針を決める組織の「外交論」にどう影響を与えたのか――。

 学生の民主化運動の行方を追い、武力弾圧を目の当たりにして涙した当時日本大使館政治部一等書記官の佐藤重和は筆者のインタビューにこう答えた。

 「憤りはあったけど、われわれの感情的なもの、シンパシー的なものと、外交は別という意識はあった。ただ天安門事件の後に日本は真っ先に関係改善もしたわけですから、その気持ちの上ではわれわれはいろいろと割り切れないものが山ほどあった」。  

 外交官が現場で目撃した「中国共産党の本質」は封印されてしまった。

(『天安門ファイル』の一部を抜粋し、加筆・修正のうえで再構成、敬称略・肩書は当時)

 
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