2024年4月27日(土)

Wedge OPINION

2022年10月5日

軍の意向?多角的な核兵器体制の推進? 

 そうした見解はあながち誤りとは言えまいが、それとは別な分析も少なくない。

 ひとつは、「金正恩が軍の意を迎えるために、危険な冒険主義を黙認している」(元タフツ大学助教授で元国務省北朝鮮担当官、ケン・キノネス氏)との見方だ。

 米国に対して強硬姿勢をとる北朝鮮の軍部は、金正恩の強力な支持基盤で、その存在がなければ権力に留まることが不可能だ。それを考えれば、金正恩が軍部に低姿勢、主張を受け入れざるを得ないのは当然だろう。

 キノネス氏はあわせて、コロナ感染などで不安、不満を高める国民の関心をそらす意図も指摘する。

 もうひとつ注目すべき分析は、北朝鮮が核、ミサイルの多様な組み合わせによる〝核戦力体系〟の完成をめざしているとの見方だ。慶應義塾大名誉教授の小此木政夫氏が解説する。

 「金正恩が核開発を継続する目的は、一にかかって、自らの世襲の体制の安泰を狙ってのこと。そのためには米国に、核拡散防止条約(NPT)での核保有国ではないにせよ、非公式な〝核クラブ〟メンバーとして認めさせる必要がある。

 しかし、歴史的な首脳会談にまでこぎつけたトランプ前政権との間でも結局、最後は核の扱いをめぐって交渉が決裂した。金正恩が、やはり核開発を継続、強化しなければ、自らの体制を維持できないとの判断に傾いたのは、自然なことだった。

 先月下旬からの一連のミサイル発射は、米国へのけん制はともかく、むしろ多様な組み合わせによる核兵器の運用実験とみるべきだろう。今後、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の能力向上などを含む核・ミサイルシステムの完成を急ぐのではないか。

 核は在韓米軍などを標的とした小規模の戦術核、ミサイルは射程を最大グアム島あたりに抑えた短中距離が開発の中心になる。核・ミサイルシステムが完成するに2、3年はかかると予想され、その間、ミサイル発射が繰り返され、7回目の核実験も強行される恐れがある」

 この分析はひとつの見方だろうが、それなりに説得力を持つ。

米国、外交的解決のリーダーシップとれず

 各国はどう対抗すべきか。外交、軍事両面で採るべき手段が検討されるだろうが、外交面では、国連を舞台にしたいっそうの制裁強化、6カ国協議の再開などが取りざたされよう。

 それに加え、6カ国協議発足当初に機能した日米韓3カ国の政策調整グループ(TCOG)の再編成、日中関係にやや好転の兆しが見えてきたのを機に、中国に北朝鮮への働きかけを要請するなどが検討対象になるだろう。あわせて日本と韓国の情報機関同士の連携もこれまで以上に重要さを増す。

 しかし、外交面でリーダーシップと影響力を行使すべきバイデン政権がウクライナ問題に忙殺され、来月の中間選挙に向けて民主党が劣勢から激しく追い上げているなかでは、効果的な外交努力に時間とエネルギーを費やすことができるかは期待薄だ。


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