2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2022年10月13日

 その結果、ゆっくりとウィズコロナにシフトしていたところから、李氏が行政庁長官に就任してからの方がウィズコロナ政策を加速している。8月12日から隔離を1週間から3日間に短縮したと思ったら、約1カ月後の9月26日からは隔離がゼロになった。

香港金融の中心地、中環地区

 李行政長官としては中国政府の後ろ盾で行政長官になったので、できれば中国政府の方針と一致した防疫対策を行いたいが、気づけば官僚に説得され、自分の意と反する政策をせざるを得なかった。香港の公務員は中国に忠誠を誓うという宣誓をしなければならないが、現実の政策決定において、官僚が自分の抵抗勢力になるとは思いもしなかっただろう。

オリガルヒのボートが香港に停泊

 そして10月に入り、香港政府に頭痛の種が増えた。それはロシアのオリガルヒ(新興財閥)が所有する巨大ヨットが香港の中で停泊しているのが目撃されたのだ。

 これは、鉄鋼事業などを手掛けるアレクセイ・モルダショフのヨット「NORD」で、全長142メートル、高さ22.5メートル、排水量は1万154トン。映画館やヘリポートまで備える豪華ヨットで、価格は39億香港ドル(720億円)とも言われている。

 同氏は米国や欧州連合(EU)などから資産凍結の対象になっており、米国政府は「避難場所を提供してはならない。香港の金融ハブとしてのイメージを損ねる」と香港政府に警告。香港が制裁の回避地として利用されること警戒しているようだ。一方、香港政府は「個別案件についてコメントしないが、香港政府は他の司法サイドが一方的に課している制裁を実施する権限はない」と述べる留まった。

 しかし、香港政府は中国政府にどう対処するべきか相談していることはほぼ確実で、香港政府は中国政府の指示に沿って対処するしかない。オリガルヒのヨットで米国と中国との板挟みになるとは思ってもいなかっただろうが、国際金融のハブの地位を考えると迷惑極まりない停泊であることは間違いない。

 李行政長官は基本的には中国政府の意向を汲みたい。経済界の声に押された形による政策変更は、忸怩たる思いがあったかもしれない。

 これは、香港経済がどれだけ世界と繋がっているのかを実感し、特に香港を統治する上で経済という要素を無視できないものだということを知るいいレッスンになったと言えるだろう。とはいえ、中国政府は香港の中国化を進めており、その流れは変わらない。

 中間管理職が上司と部下の板挟みで苦しむことがあるが、香港も中国本土と財界、時には米国とのあいだでしばらくの間は揺れ動きそうだ。

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