2019年の逃亡犯条例改正案をきっかけとした大型デモ、翌20年の香港国家安全維持法の制定で1国2制度の形骸化か叫ばれている香港。しかし、世界有数の〝親日都市〟ではデモ以降も、ドン・キホーテ、スシロー、すき家、マツモトキヨシが進出したほか、年内にもコメダ珈琲の第1店舗がオープン予定など、日系企業が撤退とは逆の方向に流れている。新型コロナウイルスによる渡航制限の中、香港に戻る際の隔離を厭わず日本へ旅行する人など日本熱も全く衰えていない。
コロナ後も飲食店中心に日系企業が活況
農林水産省が発表した21年の農林水産物・食品物の国・地域別の輸出額は、1位中国、2位香港、3位米国だったが、20年までは香港が16年連続でトップだった。人口わずか750万人の香港が、中国や米国という国レベルと対等に輸出総額を争っているという事実は驚くべきことだろう。それはイコール、日系企業にとっては大きな進出先、投資先の候補となる。
ディスカウントショップのドン・キホーテが食料品を中心としたラインナップでアジア・太平洋地域で展開する「Don Don Donki」を19年のデモ真っ只中にオープンさせたほか、同年に回転寿司大手のスシローも香港に進出した。両店とも人気を集め、ともに10店舗以上を展開した。
筆者の友人は「最初は、ドンキが来るんだって思ったが、値段は安いし、ワンストップで全部そろうのがいい。コロナ禍でもいろいろと重宝した」と話す。両店はさらに店舗を増やす予定だ。
ドラッグストア大手のマツモトキヨシは、新型コロナで20年からずれ込んでいた1号店を22年5月11日にオープン。すでに年内に4店舗出店する計画を立てている。コーヒーチェーンの「コメダ珈琲店」はイオンストアーズ香港とフランチャイズ契約を結び、年内に1号店の開業を目指すことが決まっている。
今、ここに挙げたのは「ほんの一部」だ。デモが発生した19年以降だけでも小売・飲食を中心に10社以上の日系企業が香港に進出してきている。
進出する理由として、中国市場への入口として香港をとらえるケースと香港市場だけでも十分にビジネスとして成り立つという両方の考えある。いずれにしろ、香港人は日本への理解度が高いことから、知名度アップなどの初歩的なマーケティングや宣伝活動をあまりしなくても良いというのは大きなメリットだ。
さらに、コロナ禍が不幸中の幸いとして作用した。香港は世界一不動産価格が高い街だが、コロナ禍で家賃が下がり出店しやすい環境にある。日本企業がキーテナントとしてショッピングモールに入居するための価格交渉でも有利に運べる。