特筆すべきは弱小勢力だった極右連合が14議席という議会第3勢力に躍進したことだ。予想を上回る大量得票だ。その一方で、パレスチナとの和平を推進してきた伝統的左派の「メレツ」は最低得票率の3.25%に届かず、議席を失う大敗を喫した。
極右の〝正体〟
なぜ、パレスチナ人に対する強硬方針を掲げる極右連合が票を伸ばしたのか。それは国民が「治安の安定」を何よりも求めたからに他ならない。
同国では春以来、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸などでユダヤ人への襲撃事件が多発し、治安部隊との衝突が相次いでいた。国連によると、この間のパレスチナ人の死者は125人以上、ユダヤ人も19人が犠牲になり、今年の死者数はここ十数年で最悪だ。
特に先月には、イスラエルの治安部隊が西岸ナブルスのパレスチナ人武装組織の拠点を急襲し、6人を殺害する事件が発生。パレスチナ人との衝突の懸念が高まっていた。こうした政情不安が国民を、厳しいパレスチナ対策が期待できる極右支持に駆り立てることになった。またメディアが連日、極右の象徴的な存在である「ユダヤの力」のベングビール党首を取り上げたことも大きい。
同党首は昨年、東エルサレムのアラブ人の聖地「ハラム・シャリーフ」に集団で立ち入り、パレスチナ人と衝突した。この場所はユダヤ人にとっても「神殿の丘」と呼ばれる聖地だが、歴代政権はユダヤ人の立ち入りを抑制してきた。この衝突にパレスチナ自治区ガザのイスラム武装組織ハマスが参戦、11日間にわたる戦争の要因になった。
ベングビール氏は選挙でも、パレスチナ人を銃撃するイスラエル軍兵士の免責、国家に忠誠を誓わないパレスチナ人の国外追放、自治区西岸の併合などを主張、パレスチナ問題に強行方針を繰り返した。そもそも同氏は人種差別主義を標榜した組織の出身。そのあまりの過激な言動で、イスラエル軍への入隊を拒否された経歴の持ち主だ。94年にパレスチナ人29人を殺害したユダヤ系米国人の肖像写真を長年自宅に飾っていたことも有名だ。
もう1人の「宗教シオニズム」のスモトリッチ党首は同性愛者憎悪で知られる人物。同性愛を禁じるよう主張している上、現職の首相に訴追が及ばないよう法改正を唱えており、汚職容疑で起訴されたネタニヤフ氏にとってはエールになっている。ベングビール氏は政権入りした際には警察を統括する「公共治安相」を要求するとし、スモトリッチ氏も「国防相」のポストを求めている。