2022年12月9日(金)

知られざる高専の世界

2022年11月18日

»著者プロフィール
著者
閉じる

堀川晃菜 ( ほりかわ・あきな)

サイエンスライター・科学コミュニケーター

新潟県出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学。同大学大学院生命理工学研究科修了。農薬・種苗メーカーでの勤務を経て、日本科学未来館の科学コミュニケーター。その後、WEBメディアの記者・編集者を務め、現在はフリーランス。著書に『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、『みんなはどう思う? 感染症』(くもん社)。

就職がゴールという認識を
改める必要がある

 高専が社会のニーズに応じて教育改革を進めても、受け皿となる社会は一向に高専人材の評価を改めていない──。この溝を埋めるために、高専教員も高専の認知度、そして高専生の評価向上に心血を注ぐ。手塩にかけた学生を安く買いたたかれたくのは当然だろう。

 長年、高専の改革を進めてきた高専機構の野口健太郎教育参事は「高専生が、その能力に見合った評価を受け、社会人になっても成長し続けるためには、教員側も就職がゴールという認識を改める必要がある。ジョブ型雇用が広がる中で、高専出身者が転職でもキャリアアップする選択肢が持てるように教育するべきだ。同時に学生の質をどう示すのかという問題意識からポートフォリオ教育、能力の〝見える化〟に取り組んでいる」と話す。

 各種コンテストで輝かしい成績を収める高専生なら自己PRにも困らないだろうが、在学中からスポットライトを浴びる学生は一握り。学業成績だけでコンピテンシー(優れた成果を挙げる能力、行動特性)を示すのは難しいようにも思えるが、ここにも各高専の特色が生かされている。高専教育の新たな軸の一つ、地域を学びの場とした課題解決型学習(PBL)である。

 野口氏と共に教育改革に励み、新潟県の長岡高専でPBLの実践に取り組む外山茂浩教授は「不確実性の高い時代では課題を見抜く力が求められるが、それは、特定の条件下で競うコンテスト以上に、実際に地元の人たちと対話を重ねる中で鍛えられることもある。学生たちはPBLの過程を振り返る中で自らを俯瞰し、自分の言葉で成長を語れるようになってきた」と手ごたえを語る。

 PBLが授業で終わらず、発展して起業に至る場合もある。近年際立つのは起業家の顔を持つ高専生の存在だ。彼らを後押しする動きもある。毎年約30人の高専からの編入生を受け入れている東京工業大学は、22年10月より「みらい創造高専起業奨学金」を設置。編入生を対象とした入学前の予約型奨学金であり、前例のない制度と話題を呼んでいる。技術と志を持った高専生を支援し、イノベーションの創出につなげるねらいだ。

 東京工業大学の益一哉学長は「最近は、技術だけでなくビジョンを持ち、提案力のある高専生が増えている。大学にとっては全国から高専生が集まることで多様性が広がる。多様性はイノベーションの源泉。だが多様性を支えるには人件費、設備費などのコストもかかる。効率化を重視してそのコストを許容してこなかったことが今の日本の停滞の一因ではないか」と語る。この現状を打破するには「変革を恐れず中身や佇まいを変える気概で取り組まなければならない」と話す。

 製造業にも明るい兆しはある。昨今では、入社後の処遇に高卒、高専卒、大卒、院卒の区別を設けていない会社も見られるようになってきた。大手化学品メーカーのダイセルは「どの社員にもチャンスは与えるべき」という理念の結果として、高専出身者も能力を発揮しやすい環境を整えている。

 22年4月には人事制度を変更。高い評価を得た社員の昇進スピードが速まる制度を設けた。管理職に登用される年齢は従来の30代後半から最速では30代前半となる。さらには、管理職登用後も自身が進みたいキャリアを選択できるようにマネジメント職、プロフェッショナル職とより専門性が高いフェロー職の3つのコースを設けている。同社事業支援本部人事グループの絹田一平採用担当部長は「企業は最終学歴にこだわらず社員が自身のキャリアを描くための選択肢を用意し、高いスキルを持つ技術者を正当に評価していくべきだ」と話す。

新着記事

»もっと見る