2024年11月21日(木)

知られざる高専の世界

2022年5月31日

高知工業高等専門学校(高知県)

 「ピピッピーピー」。地上から2000㌔メートル(以下、㎞)離れた場所から届く不思議な音。その正体は衛星から送られるビーコン電波、モールス信号だ。

 いま、上空560㎞を飛行しているのは、重さ2.6㌔グラム、10㌢メートル(以下、㎝)四方の立方体を2つ重ねたサイズの超小型衛星「KOSEN-1」。2021年11月9日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)からイプシロンロケット5号機により打ち上げられた。開発チームの最年少技術者は弱冠15歳、現役の高専生だ。全国の工業高等専門学校10校から50人を超える高専生が参加し、衛星の設計から、通信系、電源系、各種装置の製作などを分担。3年近い年月をかけて共同開発された。

KOSEN-1衛星は高知、群馬、徳山、岐阜、香川、米子、新居浜、明石、鹿児島、苫小牧の計10高専で開発を行った(写真=高知高専提供)

 活動の母体は、全国の高専の宇宙航空分野の教員を中心とした教育研究プロジェクトグループ「高専スペース連携」だ。発起人は、KOSEN-1衛星のプロジェクトマネージャーを務める高知高専の今井一雅客員教授。この活動の中で、高知高専や群馬高専など10校が14年、文部科学省の実践的若手宇宙人材育成プログラムに応募し、「国立高専超小型衛星実現に向けての全国高専連携宇宙人材育成事業」が採択され、これが壮大なプロジェクトの出発点となった。

 だが、事業名にも「実現に向けて」とあるように、いきなり衛星開発に着手できたわけではない。宇宙理工学の特別講座や合宿型の「高専スペースキャンプ」、CanSat(缶サット)という飲料水の缶サイズで製作する模擬人工衛星のコンテスト実施など、さまざまな経験から知識を身につけ、技術を磨いてきた。CanSatは模擬とはいえ、モデルロケットからの切り離しや、パラシュートでの着地など、人工衛星や探査機に必要な技術が詰め込まれている。設計から製作、運用に至るまで、機械工学、電気電子工学、情報工学、制御工学など幅広い専門性が求められる。

 18年、JAXAの革新的衛星技術実証2号機に搭載される実証テーマに選ばれたことで、ついに本物への挑戦が始まった。KOSEN-1衛星は、木星からの電波を観測する衛星として開発された。木星は太陽系最大の惑星で、地球の10倍もの強い磁場を持つ。そこから放射される強力な電波を調べることで、木星の環境を探り、ひいては宇宙におけるエネルギー放射や変換のメカニズムを解明できるのではないかと期待されている。今井客員教授は40年以上、この木星電波の研究を続けている。


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