2022年10月3日(月)

Wedge REPORT

2022年4月12日

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ミッション1で月面着陸に挑むispaceのランダー (©ispace)

 日本における月関連民間企業のパイオニアとも言えるのがispace(アイスペース)だ。同社が率いたチーム「HAKUTO」は、グーグルがスポンサーとなった懸賞レース「Google Lunar XPRIZE」(月面に民間資本だけで着陸してロボット探査機を動かし、地球と通信する)で、2015年に中間賞(賞金50万ドル)を獲得したという実績を持つ。このときは、月面探査車(ローバー)を完成させたが、パートナー企業の月着陸船(ランダー)の開発が遅れ、惜しくもレースの期限である18年3月までに月に到達することができなかった。

 それでも、「HAKUTO-R」(Rは “R”eboot)として、18年9月から新たなプログラムを立ち上げた。ミッション1として独自開発のランダーを送り込み、ミッション2で独自のローバーを走らせて月面を探査する。ミッション1と2を総称してHAKUTO-Rという。ミッション3以降では、高頻度でランダーを月に送り込み、「地球~月」の輸送事業者となると共に、独自に月面を調査することで、そのデータを販売するという2つの事業を確立する予定だ。このミッション1が、今年末(2022年4月時点の想定)に予定されている。ここでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロボット、日本特殊陶業の固体電池、ドバイ政府宇宙機関のローバー、カナダ宇宙庁によるLEAPの一つに採択されたMCSS社のAIのフライトコンピューターなどが搭載される。

袴田武史。1979年生まれ。ispace代表取締役。名古屋大学工学部を卒業後、米ジョージア工科大学大学院で修士号(Aerospace Engineering)を取得。経営コンサルティング会社を経て、ispaceを創業

 子どもの頃に見た映画『スターウォーズ』をきっかけにして「宇宙」への憧れを持ち続け、名古屋大学工学部や米ジョージア工科大学で学んだアイスペースの袴田武史Founder & CEO(42歳)はこう振り返る。

「2010年に会社を立ち上げたときにはここまで時間がかかるとは思いませんでした。ただ、チャンスがある限りくらいついてきました。立ち上げた当初は『失敗してもなんとかなる』という気持ちでいましたが、資金を預かるようになると、それに対する責任感がより大きくなりました」

 実際、起業してから、大変だったのが資金調達だ。HAKUTO運営時、一時は、貯金も底を尽きかけるようなこともあったが、「Google Lunar XPRIZE」で中間賞を受賞して賞金を得るなど、ピンチを乗り越えてきた。

「いくら優れた技術があっても、それは要素の一つでしかありません。経済的なメリットがないと継続することはできないのです」

 そんな思いを強くしたのが留学したジョージア大の担当教授の姿だ。研究のかたわら「中小企業の経営者のように」資金繰りに奔走していたという。

 スペースXの「ファルコン9」で使用されるブースターロケットが、逆噴射をして地上に戻ることで再利用が可能となり、打ち上げコストが劇的に下がったように、民間企業の強みは、まさにこの点にある。月への輸送事業者を目指すアイスペースでも同様だ。

「ランダーの大きさなどにもよるので一概には言えませんが、国家主導で行われてきた輸送費と比べれば、1㌔グラム当たりの単価はかなり抑えられていると思います。実際、国家主導であると、失敗ができないため、どうしても“セーフティ”な選択をしがちとなり、結果的にコストアップ要因となってしまいます。その点、民間であれば、ステークホルダーの皆さまが許容してくださる範囲で、よりリスクをとったチャレンジをすることができます。民間企業の参入が増えることで宇宙産業に変化が生まれ、社会を変えるような新たなエコシステムの構築が進んでいると感じています」

 NASAでもこのようなコスト競争力を持つ民間企業の参入を後押しする形で「商業月面輸送サービス」CLPS(Commercial Lunar Payload Services)というプログラムを立ち上げ、参入企業の認定をはじめている。アイスペースは、ここにも名を連ねる一社だ。さらに、NASAとは月の砂である「レゴリス」を販売する商取引プログラムに参加する企業としても採択されている。

「われわれの強みの一つは、アポロ計画でも月着陸船の誘導・航法・制御システムを担当したチャールズ・スターク・ドレイパー研究所とパートナー契約を結んでいることです。今回の着陸ミッションでも彼らの技術を使用することができます。数あるプレイヤーがいる中で、われわれが選んでもらえたということも価値のあることだと思います」

 このような取り組みを経てアイスペースが実現を目指すのが「Moon Valley 2040」だ。

「月と地球を1つのエコシステムとする経済圏を構築することで、月面で1000人が暮らし、毎年1万人が旅人として月を訪れるということを構想したのが「Moon Valley 2040」です。かつて「ゴールドラッシュ」によってカリフォルニアに多くの人が押し寄せましたが、月では「水」の発見がその起爆剤となることが見込まれています」

 最後に、袴田さんが考える、月(宇宙)開発の課題について聞いた。

「私たちは月の開発を通じて、月に経済圏を作ることを目標にしています。月に経済圏を作るということは、そこに人間社会ができるということであり、単に技術だけではなく、より大きな枠組みを考えることができる人材が必要になると思います。例えば、月面上における法制度の整備です。そこまでいかなくても、まずは『ソフトロー(非法的規範)』のような形で、ガイドライン、ルール作りをする必要があると思います。これは、日本だけでなく世界規模で行うことになると思います。

 また、日本に限って言えば、もっと、トライ&エラーに積極的になる必要があります。技術開発や新分野に関しても、もっと民間主導で行われるべきであり、これが月の経済圏構築に必要だと思います。もちろん、それを支えるエンジェル投資家の存在も欠かせません。

 加えて、米国などでは理科系の学位、もっと言えば、理科系と経営の両方の学位を持った経営者がビジネスでも成功しています。これは欧米の大学院が、サイエンスを通じて問題解決の能力を育成していることに起因しているのではないかと、私は考えています。日本はまだ『知識詰込み型』が多いと思いますが、これからは『問題解決型』の人材がより求められると思います」

  
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