「宇宙は遠いようで
一番近い場所になった」
打ち上げから95分後、地球を一周してきたKOSEN-1衛星は地上局にビーコン電波を送ってきた。自分たちの作った衛星から〝声〟が届く。「まるで遠く離れた友達と電話でもしているようだ」と部長の坂本蓮人さんは話す。「宇宙は憧れの場所、でも届かない場所だった。だが今は、ついこの間まで自分の手元にあったKOSEN-1衛星が宇宙にある。いつでも、どこでも空を見上げれば宇宙とつながれる感覚。宇宙は遠いようで、一番近い場所になった」と語る。その後、22年3月の時点で、KOSEN-1衛星はすでに2つのミッションに成功し、残るは大型アンテナの展開技術を実証するのみだ。
続くKOSEN-2衛星の開発もすでに始まっている。坂本さんたちの1学年後輩で、この春3年生になった杉本吟我さんは地上や海洋上のセンシングデータを収集する衛星搭載アンテナの設計を任された。「これまでの経験を生かし、さらにパワーアップした衛星をつくりたい」と意気込む。今井客員教授は「またあの感動を学生たちと分かち合いたい。高専生の強みは、手を動かしながら考えられること。頭の中だけではイノベーションは生まれない。これからも究極のものづくり教育を続けたい」と話す。
さて、これまで全国各地の高専生の活躍を紹介してきた本連載は今回で最終回を迎える。地域に根差した各校の“本物”を題材とした実践教育は「高専」と一括りにするのはもったいないほど、特色豊かなものだ。そして全国に50校を超える高専ネットワークは、インフラやサイバー人材の育成、さらには宇宙開発と多方面で日本の技術基盤をより強固にしている。世界に羽ばたく「KOSEN」にぜひ今後も熱い視線を注いでほしい。
日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。