2024年7月27日(土)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年11月28日

 「適合的な期待形成」とは家計部門において、値上げが当然視されるような経済環境が仕上がっていく様子を指す言葉である。今年6月、黒田総裁が「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、これが一部メディアを通じて「値上げを受け入れている」との発言に変換され大変な騒ぎとなったが、家計部門が値上げを前提に消費・投資行動を展開する兆候を捉えて「適合的な期待形成」が進んでいるということが言いたかったのだろう。

 足許では6月とは比較にならないほど値上げの波が到来していると言える。確かに、値上げの動きがこれほど支配的になれば、これまで売上の落ち込みを恐れて躊躇していた企業にも動きが波及してくる可能性はある。日本もようやく物価が上がるという普通の社会に移りつつあるのかもしれない。

食料品で進む物価高

 各種メディア報道を持ち出すまでもなく、9月、10月、そして11月と月を跨ぐごとに「値上げの秋」を囃し立てるムードが大きくなっている。とりわけ食料品にその動きが大きいことは周知の通りである。

 具体的な数字を見ると生鮮除く食料は同+5.9%、全体に対する寄与度は1.38%ポイントと全体の伸びの4割を説明できる。さらに細かく見ると寄与度の大きい順に外食が同+5.1%(寄与度+0.24%ポイント)、調理食品が同+6.5%(寄与度+0.23%ポイント)、穀類が同+8.2%(寄与度+0.17%ポイント)と続く。

 例えば外食に関し、10月は大手回転寿司チェーン店が1皿100円を遂に諦めたというニュースが大々的に話題を集めていたが、それ以外の業態でも幅広い値上げが進んでいるものと推測される。そのほか菓子類やパンなどの値上げも日々報じられており、CPIの動きは体感に合う結果と言えそうである。 

 なお、10月に始まったことではないが食料品以前に光熱費も同+14.6%(寄与度+1.06%ポイント)と大幅な上昇が続いている。食料や光熱費といった生活必需品項目に物価上昇が及ぶと相対的に所得の低い家計にダメージが及びやすくなる。

 年明け1月以降は物価高騰に対応するための「総合経済対策」の中で電気・ガス代に対する支援策が実行されるためダメージは軽減に向かいそうではある。もっとも、後述するように、それは円安の影響がここで止まれば、という話ではある。


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