日本経済新聞が9月6日付の「個人、外貨定期預金が大幅増 ソニー銀行は金利10倍超に」で、個人の外貨定期預金口座開設が活況を呈していると報じている。一部の大手ネット銀行は1カ月間における新規預入額が半年前対比で8割増加したという。
海外の中央銀行利上げに応じて預金金利が急上昇していることに妙味を覚える向きもあろうが、やはりそうしたインカム(金利)部分ではなくキャピタル(為替差益)部分を目的とした資産運用の流れであろう。パンデミック局面という括りで議論した場合、2020年1月対比で円の価値劣化は著しく、またそれに付随して「安い日本」を裏付けるナラティブな事実も枚挙に暇がなくなっている。こうした世の雰囲気が家計部門の外貨への投資意欲を焚き付けているのはある程度間違いないだろう。
円の資産価値は2年半で2割減
数字を見てみよう。20年1月から7月末までに関してみた場合、円は名目実効為替相場(NEER)で▲17%、実質実効相場(REER)で▲24%下落している(図表①)。
ちなみに対ドルで20年初頭から足許までの変化率も▲24%だ。何もしなくても名目ベースで見たドル建て資産価値が2割以上も減った上、海外との賃金格差などによる国内外の価格差も相まって、日本が海外から購入する財は定価そのものが高くなっている。もちろん、円安の影響も免れないが、各国購買層の賃金情勢に差がある以上、円安以前の問題として定価自体が日本人にとって高価に映りやすくなる。
iPhone(アイフォン)や高級外車や高級時計のように、世界中の誰もが欲しがる財は日本の事情とは関係なく定価設定が検討される。スマートフォンや時計のように国境を越えての持ち運びが容易な財は裁定が働きやすく、「日本だけ安い」という状況が放置されにくくなる。
現状、取りざたされる「安い日本」の背景には円安という為替要因のほかに、内外の賃金格差も大きな要因として加わっている。但し、メディア報道を通じて、多くの国民は「円安のせいで貧しくなっている」という通念に影響されやすくなっており、その結果として資産形成にも影響が及びそうな現状がある。