「外部勢力」への直接攻撃
そしてつい最近まで「外部勢力」という表現は、習近平独裁のもとで中国の人々のヒステリー的な反応を引き起こし、習近平政権を磐石にしていたようにも思われる。習近平政権が新疆・香港の「外部勢力の手先」と見なした人々を執拗に叩き、「社会の安定」が実現したと宣伝すると、多くの中間層は「中国に逆らい混乱をもたらす者」が粛清されたことに溜飲を下げた。
新型コロナウイルス禍と米中対立の中、中国は米国や西側諸国を「偽りの自由と民主とともに社会が混沌とし失敗している」と激しく貶め、人々の間における「中国すごい」の声は絶頂に達した。そのような中、西側指導者やメディアが中国に批判的な言動を繰り返したことから、中国側は「外部勢力が中国の正しい声と真実を歪曲している」と非難し続けた。その結果、昨年の今頃までの中国では、中国に批判的な外国メディアや外国人への嫌悪がかつてなく高まっていた。
例えば、昨年夏、河南省鄭州で大洪水が発生した際には、当局が一般の人々に対して「取材をする外国人を見かけ次第連絡せよ」との通知を発し、ドイツの取材クルーが取材妨害を受けたことは記憶に新しい。
また中国は、フェイクニュースを捏造して「外部勢力」を無力化する試みすらした。中国は一貫して「米国がばらまいたウイルスへの防衛」を主張する中で、「ウィルソン・エドワーズという高名なスイス人生物学者が、ウイルスの発生源を揉み消す米国を批判する正義の声を上げている」と宣伝し、永世中立国であるスイスの著しい不興を買った。
そして今や中共は昨今の混乱の中で、人々のスマートフォンを抜き打ちでチェックし、中国では閲覧不可な外国アプリの存在を摘発し始めている。そして、VPN(仮想個人ネットワーク)を介した「壁越え」海外アクセスを強く規制するといった方針も伝わってくる。
今般の反封鎖運動の高まりを受けて、広東など一部地域では当面防疫管理体制が緩められたが、一方で今後は、様子見を経て方針を固めた中共が、「外部勢力」の影響を受けたと見なした抗議運動参加者やネットユーザーを一斉に厳しく弾圧する可能性が強く懸念される。
習近平政権は江沢民・胡錦濤時代を受け継ぐ
以上のことから言えるのは、「習近平政権の過酷な統治は特異なものであり、江沢民・胡錦濤時代は開明的で悪くなかった」という認識は誤りだということである。むしろ習近平政権は、「外部勢力による平和的な政権転覆」の恐怖に怯えた鄧小平氏や江沢民氏が描いた陰謀論的な世界観の中から生み出され、経済発展で得た技術力と資金力で強化されたものだと評価できる。
いま、「自分は外部勢力の影響を受けていない。あくまで中国公民だ」と勇気ある声を上げる人々は、そもそも江沢民時代以来の壮大な陰謀論とないまぜの「発展」の中で、中国人は一時豊かになりこそすれ、結局は幸福ではないことを痛感し、自らの責任感において中国における自由と個人の尊厳を求めているものと理解するべきであろう。
日中国交正常化50年、香港返還25年と、2022年は、中国にとって多くの「節目」が並ぶ。習近平国家主席が中国共産党のトップである総書記に就任してからも10年。秋には異例の3期目入りを狙う。「節目」の今こそ、日本人は「過去」から学び、「現実」を見て、ポスト習近平をも見据え短期・中期・長期の視点から対中戦略を再考すべきだ。。
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