去る10月23日に開催された中国共産党(以下、中共)第20回党大会閉幕式の場で、習近平氏の隣に座っていた前任の党総書記・胡錦濤氏が連れ出された光景が瞬時に世界的な注目の的となり、国営新華社通信は慌てて、健康状態を慮った云々という火消しに入った。
しかし、半ば狼狽しながら抵抗した胡錦濤氏の老い切った表情といい、習近平氏のにやけた表情といい、立たされる胡錦濤氏を支えようとする動作をした栗戦書氏の左隣に座る王滬寧氏が「止めとけ」と言わんばかりに栗氏の背広を引っ張った(または叩いた)ことといい、これは公開宮廷クーデターのようなものである。
聖人君子の統治の偉大な復活
今回の党大会はそもそも、以下のことを中国の内外に示すためにあった。
(1) 過去10年(あるいはそれ以上、ことによると百数十年)かけて中国が願ってきた、外部の助けを借りず、外部の圧迫なく、真に中国自身の力と知恵のみによって国家建設と「富強」を実現する条件が整ったという宣言。
(2) 中国が多極化した世界の中で、西側の影響を受けずに排他的な影響力を行使し、ゆくゆくは中国の恩恵こそが真に世界を導き豊かさをもたらすという「中国の夢」が完全に実現する見込みが立ったという宣言。
習近平中国は、今や西側が主導するグローバリズムは米欧の没落によって終焉しつつあると宣伝しており、「乱」にまみれた既存の西側主導の世界に代わって、「穏」な世界を提供するという。そのような役目を担いうるのは、伝統的な「中国の知恵」を現代に復興させて最先端の科学技術と結びつけ、中国の「正能量(プラスのエネルギー)」を飛躍的に高めた中共であり、その中共の指導を絶対的な正しさの高みまで推し上げたのは習近平氏である、と言わんとしているのである。
このような発想は、天地万物の法則を完璧に理解した聖人君子が、「天下」(=グローバル社会)全体と万民を正しい方向に導くことができ、そのために「経世済民」の感覚を発揮して最先端の事物にも柔軟に対応することを良しとする、かつて19世紀以後の日本や清朝で見られた改革派儒学者の議論に連なる。
「中華民族の偉大な復興」とは、かつて一度も完全には実現せず、しかも西洋や日本によってくじかれた「天下」支配を今度こそ確実なものにしようとするものであり、「真正の中華帝国」を夢に描くものである。