2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年12月15日

 次に、権力承継がリスクだとの主張は、過度に深刻視する必要は無いだろう。3選を禁じる憲法の改正でジョコ大統領が続投するという可能性は、とうの昔になくなっている。伸び盛りの国に相応しく、後継者の能力があると評価される人物は相当多い。一方、立候補には国会の20%以上の議席を持つ政党の支持が必要なので、現実的な候補は既に片手以内に絞られている。

 更に重要なのは、大統領候補の出身母体の多様化だ。軍が唯一のエリート養成機関であったのは、遠い過去の話である。今や、州知事を含む地方の首長(いくつかの州は数千万の人口で、中小国より大きい)が登竜門の一つになっている。ジョコ自身もジャカルタ特別州知事出身だし、今の候補者中、軍出身は70歳代の一人に限られる。これは、「ビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性」は最早それほど高くないことを意味している。

歴史も絡む中国との難しい関係

 第三に「中国の影響下に入る可能性」だが、これも高くない。そもそも中国の対インドネシア投資は入れるのも早いが出すのも早く、過去10年間のストックは未だ日本の1/5以下であり、ジャカルタ・バンドン高速鉄道に象徴されるように失敗例も多い。ここ数年間連続でナツナ諸島に現れる海警に守られた中国漁船の存在は、安全保障面でもインドネシアの対中姿勢を硬化させている。

 更に留意すべきは、対中関係は国内問題という歴史的事情だ。オランダ統治時代に中間管理職として厳しく当たりオランダ撤退後にその富を寡占した中華系インドネシア人は、いまだにデモ・騒乱の際の主な攻撃対象だ。これらを考えると、平時には日、米、中、欧ほかと全方位で付き合うインドネシアだが、危機に当たり中国を頼る可能性はあまり高くないと考えるべきだと思う。

 最後は、台湾危機のインドネシアへの影響である。上記社説は重要な論点を挙げているが、実際の危機に際しては、インドネシアはマラッカ海峡の唯一の代替航路を提供する立場にあることも忘れてはならない。日米は引き続きインドネシア沿岸警備隊の能力強化に努めていく必要がある。

   
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