2024年12月10日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年10月6日

 9月4日付の英フィナンシャル・タイムス紙(FT)は、「台湾を巡る米中緊張激化の中で立ち回る東南アジア諸国」と題し、フィリピン、インドネシア、シンガポールの紛争発生時の立ち位置を巡る解説記事を掲載している。

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 フィリピンのマルコス大統領は、ペロシ米下院議長の訪台は状況を深刻化させるものではなく、不安定な地域情勢は対米関係の重要性を示していると述べた。これは、ドゥテルテ前政権の親中路線から親米路線に舵を切ったと受け取られた。

 最近の中国の海軍訓練区域はフィリピン排他的経済水域(EEZ)内で、領土から約40キロメートルにあるバシー海峡を含んでいる。フィリピンは米国と相互防衛協定を結び、紛争時に米国はフィリピン基地の使用を求めるだろう。ブリンケン米国務長官はマルコス大統領に、フィリピンが南シナ海で攻撃された際は米国が防衛に駆け付けると伝えた。

 中国は東南アジア各国に、台湾支援にはコストが伴うと伝え、米国の行動を挑発的だと非難するよう勧めている。駐シンガポール中国大使は、米国のアフガニスタン撤退時のビデオを流し、「トラブルメーカーにNOを」と訴えている。中国は「一つの中国」政策についても圧力をかけている。シンガポールは米中双方と良好な関係にあり、紛争に際し米海軍の活動を支援するか等を検討しなければならない。

 地理的に重要なもう一つの国インドネシアは、先月米国とガルーダ・シールド共同訓練を実施した。初めて日本、シンガポール、豪州も参加した。中国は、同時期にタイ空軍と訓練を実施した。

 専門家は、ガルーダ・シールドを対米接近の印と捉えるべきではないとする。インドネシアは米中どちらも選択しない可能性が高く、紛争時にはインドネシア群島水域の通過を許可しないだろうとも言われる。

 どの東南アジア諸国も紛争に際してどう行動するかを詰め切れていないが、近い将来それを強いられるかもしれない。

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 まず、フィリピンは米国と相互防衛条約を結んでいる同盟国である。マルコス新政権が同盟国としての立ち位置をある程度明確にしたのは良いことである。

 フィリピンの地理は、台湾有事に際して死活的な重要性を持つ。フィリピンの元米軍基地があったクラーク国際空港から台湾最南端までは約750キロメートルで、沖縄普天間米軍基地から台湾最北端まで(約620キロメートル)とさほど変わらない。フィリピン本島最北端から台湾最南端までは約360キロメートルである。台湾有事のフィリピン基地使用は、決定的影響をもつ。

 タイも米国の条約同盟国である。しかし、米インドネシア共同訓練に対抗して、中国がタイと共同訓練したように、その立ち位置は明確でない。タイは米国とも長年、大規模な軍事訓練コブラ・ゴールドを実施しているが、その一部には中国も参加するなど、現在のタイの立ち位置を象徴している。もし、台湾危機に際してタイが米軍による国内基地使用を拒否すれば、米タイ同盟は実質的に終わるのだろう。

 問題はインドネシアである。インドネシア政府にとって中国に近いと言うことは国内問題を惹起するので、中立よりは米国に近い立ち位置を取ると考えられるが、確実ではない。重要なのは、インドネシアが米中双方の群島水域立ち入りを拒否するかではなく、国際的物流が同国の群島水域で自由で安全に通過することを確保できるかである。


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