シンガポール国立大学南アジア研究所所長のラジャ・モハンが‘Why Non-Alignment Is Dead and Won’t Return’と題する論説を書き、Foreign Policy誌のサイトに9月10日付けで掲載されている。論説の主要点は次の通り。
・アフリカ、アジア他多数の国が中露との対立で西側支持を拒否する中で、非同盟政策回帰との見方が広がっているが、これは間違っている。
・グローバル・サウスの現実的指導者はソ連モデルの限界を認識し、1980年代までには西側資本主義と国際開発機関に傾倒。1991年のソ連崩壊前に開発途上国の殆どは、既にワシントン・コンセンサスに参加していた。その時点で非同盟は終焉を迎えている。
・しかし、開発途上世界のウクライナ戦争に対する無関心の種はポスト冷戦事態に蒔かれていた。西側は、グローバル・サウスとの関係構築努力の必要性を認めず、民主主義促進、社会改変、気候変動政策を押し付け、威圧的にふるまった。
・途上国がロシアのウクライナ侵攻に反対しなかったことは開発途上世界が新非同盟主義に向かうことを意味しないが、西側は多くの教訓を学ぶ必要がある。
・グローバル・サウスの支持を当然視すべきではなく、支持を取り戻すには努力が必要だ。
・中露との対抗には、友人を勝ち取り人々に影響を与えるという古典的外交への回帰の必要性を認識し、説教外交は止めるべきだ。
・地域研究の重要性の再認識が異なる地域の複雑さへの西側の理解を助ける。西側での単一アジェンダ追求グループ登場と政府への啓蒙の成功は、開発途上世界との関係において有害だ。
・冷戦時代に比べ開発途上国の富と組織と自信は増大し、多くのエリートは競争する大国間で地政学的交渉をする術を心得ている。これは西側が活用すべき機会を提供。今日の中国の戦略的挑戦はソ連よりも大きいことを考えれば、その活用は尚更必要だ。
・西側指導者は、「グローバル・サウスは選択をしたくない」というレトリックは無視し、開発途上世界の鍵となる国々の個別の懸念と脆弱性と関心に焦点を当てるべきだ。
・開発途上世界は非同盟活動を再活性化するつもりはない。
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包括的で論旨明快な論説だ。非同盟主義はソ連崩壊までには死滅しており(そもそも非同盟主義は論旨一貫した単一の考え方では無かった)、ロシアのウクライナ侵攻に際して立場を明確にしない国が多い現状は、新たな非同盟主義の復活を意味しない、という主張には賛同できる。
一方、現在の状況が非同盟主義花盛りの時代に比べ対応しやすいというわけでもない。モハンも、その点を理解した上で、「伝統的な外交」への回帰を西側に提言しているのだろう。