2024年12月7日(土)

古希バックパッカー海外放浪記

2022年11月20日

(2022.7.16~9.11 58日間 総費用22万5000円〈航空券含む〉)

日系の最大手の老舗英語学校はまさに大企業

 8月25日。●●英語スクールのビーチに近い5階建ての自前の校舎はドミトリー(学生宿舎)も完備している。日本人女性マネージャーに話を聞いた。マクタン島の分校では現在オンライン・レッスンのみ。数百人の講師が各自のブースで日本など海外の生徒にオンライン・レッスンしている。対面レッスンをしているのはセブシティーの本校だけで、コロナ対策のため規模を縮小して現在30人ほどを受け入れている。

 コロナ前は本校・分校あわせて1300人の講師を抱えていたが、現在では1000人程度に縮小。●●では講師全員がTESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)の資格を取得している。TESOLとは英語を母国語としない人々に英語を授業するための国際資格である。他の英語学校でも基本的には講師はTESOL資格を持っている。

 事務職員・ガードマンなども含めれば従業員千数百名の大企業である。業界の評判では●●老舗でありフィリンピンで最大手の一つと聞いていたが、これほどの規模とは想像もしていなかった。

このリゾートホテルの敷地内に二つの英語学校の建物がある

アラブ人オーナーの英会話スクールの市場分析と経営ビジョン

 ▲▲英語スクールは大きなリゾートホテルの一棟を借り切っていた。オーナーはサウジ・アラビアのお金持ちらしい。支配人もアラブ人でアラブ人特有の尊大で猜疑心の強そうな男であった。支配人の話ではオーナーはフィリピンの英語学校が盛況なのを見て、現在生徒の大半を占める韓国人・日本人・中国人以外にマーケットを広げれば儲かるビジネスになると発想したらしい。

 フィリピン人講師への報酬はネイティブ・スピーカーの講師と比較して7分の1から10分の1。アラブ人やロシア人は一般に英語が苦手なので、安価でマンツーマン・レッスンが受けられるなら需用はいくらでもあると分析。「オンライン・レッスンで基礎をつくり、仕上げはフィリピンのビーチリゾートで」というキャッチコピーはアラブ人やロシア人には魅力的であろう。

 既存の市場である日本・韓国・中国には提携代理店を通じて生徒を募集している。サウジなどのアラブ諸国にはオーナーの人脈で代理店ネットワークを作った。ロシア人のパートナーを通じてロシアでの宣伝を行っている。さらに台湾・タイ・ベトナムなどにもネットワークを広げている。筆者が訪問した時にはロシア美人と台湾女子がインターンとして受付業務をしていた。

 生徒は各自の都合に合わせて滞在するので週により増減が激しい。前週は80人滞在していたが、今週初めの時点では20人程度とのこと。

 ちょうど昼休みに入ったので生徒が三々五々とロビーに出てきた。日本の女子大生風のグループがニコニコと会釈してレストランに向かった。続いてアラブ系の4~5人の少年グループがガヤガヤと。それからアラブ系女子2人組。さらに韓国女子グループが「アンニョンハセヨ」と挨拶。アラブ人オーナーの思惑通り生徒の多様化は進んでいる様子だ。

サウジ・アラビアの“今”を18歳の少年から学ぶ

サウジアラビア出身のアブドゥラ君

 少し遅れて出てきたアラブ系の少年は放浪ジジイを見かけると嬉しそうに挨拶してきた。少年はサウジ・アラビア人で18歳。カイロの大学でホテル経営学を学んでいる。夏休みを利用して7月初めから▲▲に来ているので1カ月半近くマクタン島に滞在している。

 少年は習った英語を実践練習したい様子。たどたどしいながらも文法的にはあまり間違いのない英語を話した。発音がアラビア語特有の濁音の影響があり若干聞き取り難いが言わんとする内容は理解できた。

 大学卒業後は海外のホテルで修行したい。そして英語の次はスペイン語を習得してホテルでの接客に生かしたいと。放浪ジジイは35年くらい前の現役時代にサウジ・アラビアに2度出張したことがあった。首都リヤドと紅海に面した商業都市ジッダの思い出を話したところ、サウジ・アラビアはここ5年くらいの間に急激に変わっているという。

 ムハマンド皇太子が改革をどんどん進めていると賞賛。放浪ジジイが覚えているのは女性の服装。当時はイスラム教(ワッハーブ派)の教えに従い、顔全体を覆いさらに目の部分には網状の布を垂らして外部から顔が一切見えない服装をしていた。改革により女性は髪の毛と首元を覆うヘジャーブというスカーフ状のものを着けるだけでよくなったという。ヘジャーブはイスラム革命後にイラン女性が義務として身に着けているもので眉毛・目・鼻・口・頬などほぼ顔全体が外部から見える。信じられないくらいの大改革である。さらに女性の車の運転は完全に自由化され1人でドライブできるようになったと。

 驚いたのは観光ビザもEビザで申請可能、空港でアライバル・ビザも可能とのこと。以前は観光目的での入国は一切禁止で、商用目的でも身元引受人の保証書や取引先の招待状など様々な書類が必要であったことを想うと俄かには信じられなかった。

 少年はフィリピンに来るまで英語をしゃべったことがないというが、わずか1カ月半でたどたどしいながらもサウジ・アラビアの改革を外国人に理解させることができるほどの英会話レベルに達している。やはりフィリピン英語学校にはかなりの効能があるようだ。

大手韓国系英語学校は外国系フィリピン英語スクールの草分け

ハングルの看板が溢れるマクタン島、勿論日本語の看板もあるがあまり 目立たない。通りには韓国・日本の短期英語留学生目当ての店が並ぶ

 最後に■■アカデミーのセブ分校を訪問。支配人のソウル出身のケビン氏が案内してくれた。■■アカデミーは本校がルソン島中部の高原都市バギオにありバギオには2つのキャンパスを擁している。そのほかマニラ近郊のクラークにも分校がある。セブ分校はリゾートホテルの敷地にある5階建てのビル。

 1997年に工学博士の創業者が韓国の若者の英語力向上のためにバギオに開校。ケビン氏によるとフィリピン全土で政府認可英語学校が160~170校あるが、その中でも■■は規模も大きく歴史も長いと。当初は生徒の99%以上が韓国人であったが、最近は日本人が一番多く半分以上。国籍別には日本、韓国、中国、台湾、モンゴル、ベトナム、アラブ諸国。セブ分校は生徒160人が宿泊できるが現在稼働率は60%程度で90人ほど滞在している。

 ケビン氏自身が学生時代に■■で学び、その後ソウルの一般企業で勤務した経験を生かしてキャンパスの改善に努めている。感心したのは放浪ジジイを案内しながら、スタッフに気軽に声を掛けてアドバイスしたり、自分でゴミを拾ったり調度品の位置を直したりしていたことだ。日本人のたたき上げの工場長のような目配りである。

韓国系英語学校の支配人、ソウル出身のケビン君

ネイティブ・スピーカーの元英語講師によるフィリピン英語の評価

 パナイ島の中心都市イロイロで英国コーンウェル出身のマチャと名乗る42歳のバックパッカーと同宿になった。マチャは中国で十数年英語を教えた経験がある。上海や成都などの大都市よりも地方都市のほうが報酬は高いという。大都市では外国人バックパッカーが沢山いるので選考基準も厳しいらしい。

 マチャは6歳くらいのクラスではボールやカード遊びをしながら簡単な言葉を教え、10歳以上のクラスは電子ゲームで興味を引いて関連する言葉を教えたという。聞くと英語の教授法は知らないし、そもそも英文法も理解していない感じだ。日本でも一昔前は単にネイティブ・スピーカーというだけで程度の低い英語講師が多かったことを思い出した。

 それでもマチャは「フィリピン英語は欧米先進国では通用しない。英会話の入門としてフィリピン人に習うのは問題ないが。やはり本格的に英語を勉強するならネイティブ・スピーカーに習う必要がある。」と空威張りした。

 放浪ジジイの経験では知性のないネイティブ・スピーカーと話すよりは英語圏外の教養人・知識人と会話するほうがよっぽど楽しい。そもそも世界の総人口80億人のうち英語を母国語とする人口は5億人くらいだからフィリピン英語で世界の大半の人々と会話ができる。


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