2022年12月9日(金)

定年バックパッカー海外放浪記

2022年11月13日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

(2022.7.16~9.11 58日間 総費用22万5000円〈航空券含む〉)

フィリピンの英語教育は小学校から

 ミンダナオ島ダバオ市出身の英語専攻の女子大生フランシスからフィリピンンの学校教育について聞いた。フィリピンの公用語はタガログ語と英語。小学校では週5時間英語の授業があり読み書き、文法を習う。国語(タガログ語)も同様に週5時間習う。

 地方では日常生活ではタガログ語以外の方言(たとえばビサヤ語)が使われているので地方の子供にとってはタガログ語の学習は外国語学習に近いらしい。つまり地方の子供にとっては小学校から外国語を2つ学習しているようなものらしい。さらにハイスクール(中学4年+高校2年)になると数学、理科、世界史は英語で授業。大学では全科目英語で講義するところもあるという。

高原都市バギオに建てられた米国総督公邸。20世紀初頭からの40年 で米国はフィリピン全土に公立学校を建設して英語を普及させた

日常会話は「地の言葉+スペイン語&英語」のチャンポン

 筆者が2カ月弱フィリピン島巡りをして見聞した印象では、日常言語はタガログまたは地方の方言がベース。それに英単語やスペイン語単語が混じるという感じ。ラジオやテレビも同様である。ちなみにラジオやテレビでは英語だけの番組は見あたらなかった。

 フィリピン人どうしの日常会話では土地の言葉に時々スペイン語・英語が混じるチャンポン会話だ。スペイン統治時代が350年以上続いたのでタガログ語にはスペイン語由来の単語がある。オフィシナ(事務所)、パサヘロ(乗客)、ペロ(しかし)、グアポ(美しい)、トラバホ(仕事)、ムシカ(音楽)、ムセオ(博物館)など枚挙に暇がない。また本来タガログ語には曜日や数字の概念がないらしくスペイン語を援用している。したがいタガログ語を聞いているとルネス(月曜日)とかドス(数字の2)とかスペイン語の単語が聞こえてくる。

 パナイ島の州都イロイロ市の小6の少女が母親の前でタガログ語の数字をおさらいしていた。彼女の日常言語はビサヤ語である。タガログ語の数字はスペイン語と全く同じだ。スペイン語で1(uno)から100(cien)まで数えるのに何度も詰まったり間違えたりしていた。

 タガログ語が母語で外国人相手に英語を頻繁に話している人は曜日をサンデー、マンデーなど英単語を使っていた。また食堂や売店ではフィリピン人のお客がくるとボス(成人男性)、マム(成人女性)と呼びかけている。

 マニラ(タガログ語圏)出身でボラカイ島に23年住んでいるダイバーショップのオーナーから面白い話を聞いた。彼はセブ島に行くたびに地元の人間との会話に苦労するという。セブ島の人間はプライドが高くタガログ語を話さずセブ島を含むビサヤ諸島の方言であるビサヤ語しか話さない。しかたなくセブ島では地元の人間と英語で会話するという。

 こんなわけでフィリピン人は日本人と異なり子供のころから多言語文化で育ち多少は外国語慣れしているようだ。

スペイン統治時代のゲートには『Vaya con Dios』(神のご加護を)と書かれている

英語のレベルは社会的階層に比例する

 フィリピン人が一様に英語を話すというのは大変な誤解である。上述のようにフィリピン人は英語を外国語として子供のころから学習して会得する。したがい田舎で外国人観光客があまり来ないような地域では一般に住民の話す英語のレベルは低い。特に中高年に英語で話しかけるとすぐに周囲の若い人に助けを求める。

 フィリピンの義務教育は幼稚園(1年)、小学校(6年)、ハイスクール(中学4年+高校2年)の13年。公立校は13年間授業料ゼロだ。しかし公立校はいずれも定員オーバーの過密状態で一般的にレベルが低い。さらに貧しい家庭では小学校を中退する子どもも多い。公立校の高校中退率は50%という数字もある。裕福な家庭の子女は幼稚園から高校まで学費の高い私立に通い有名国立大学を目指すというのがエリートコースだ。貧困家庭の子供はキチンとした英語を話せないというのが悲しい現実である。英会話のレベルがほぼ社会的階層と一致するのがフィリピン社会だ。

英会話は豊かな人生への必須条件

 フィリピンではフツウに大学を卒業しても国内で就職すれば平均初任給が1万ペソ(=2万5000円)。日本の大卒の平均初任給21万円の8分の1以下だ。まして高卒や高校中退であれば大卒のせいぜい7割程度だ。

 他方、海外で働けば国内の給料の5倍以上、職種によっては10倍の収入が可能となる。マニラの家政婦の平均賃金(9000ペソ=2万3000円)が香港にゆけば月給4100香港ドル(=7万5000円)が保証される。ましてやITエンジニア・船員・看護師という技能・資格を持っていれば外国にゆけば外国人と同一水準の収入が得られる。

 そのため貧しい家庭の子供でも英語さえできれば豊かな人生が保証されるのだ。海外で稼ぐことができればバラ色の人生が待っているという強力なインセンティブがあれば英語だけは必至で勉強しようというモティベーションとなる。

 実際に筆者が宿泊した安宿のオーナーや女将の大半は若いころ海外に出稼ぎにゆき開業資金を貯めた刻苦勉励の人たちであった。

英会話力が高いのはフィリピン人の持つ音感・リズム感?

 筆者はサラリーマン時代一貫して海外関係の仕事に携わってきた。定年退職後は海外放浪生活をしているがいまだに英語をペラペラとは喋れない。他方で日本の歌手や俳優で半年か1年ほど短期間ロスやNYなどに滞在した人が流ちょうな英語を喋ることに驚くことがある。

 ある専門家がフィリピン人、中国の海南島の少数民族、アフリカのナントカ族などいくつかの民族は音感・リズム感が優れており自然と多くのミュージシャンを輩出していると指摘していた。現にフィリピン・バンドは世界中で演奏している。日本人でも一部の芸能人はこのような音感・リズム感が優れているのではないか。

 語学で一番重要なのはヒアリングである。相手の言葉を聞き取れなければ返答のしようもない。逆に正確に言葉が聞き取れれば自然と自分の発音も矯正できる。英会話学習では“英語の音を聞き分けろ”、“英会話のリズムを自分のものにしろ”と強調される。

 音感・リズム感が優れているというのは英会話上達の上で大きなアドバンテージである。商社勤務時代にカラオケが上手い人は英語も上手かったことを思い出した。フィリピン人は生来英会話上達に必要な能力を持っているのだ。

ビーチ沿いの75室の中堅ホテルの若干名募集に応募した三十数名の新 卒者が面接の順番待ち。カレッジ以上卒業、英語堪能が応募条件

フィリピン人はトライ・ファースト

 ボラカイ島のダイビングショップのオーナーによると日本人ダイバーはグループでも一人でも英語を話さずalways very silent and few wordsという。オーナーはどうして科学技術などなんでも優秀な日本人が英語を話せないのか、かねがね不思議に思っていたという。オーナーのショップでは礼儀正しく安全規則を遵守する日本人ダイバーは最優良顧客という。

 オーナーによると、日本人は初心者でもベテランのダイバーでも慎重に何度も器具を点検して、ウエットスーツやフィンがフィットしているか念には念をいれる。これに対してフィリピン人ダイバーはたとえ初心者でも早く潜りたいと事前の点検や確認はおざなりにすることが多い。まずはやってみてそれから修正すればOKという考え方がベースにある。

 「英語についても日本人は正確に英語を話そうと慎重に考えるので言葉がなかなか出てこないのではないか。フィリピン人は英語もまずはしゃべってみて、間違っていたら言い直すという流儀だ。日本人もトライ・ファーストでしゃべれば英語を話せるようになるよ」とオーナー氏はアドバイス。

 日本人と比較してフィリピン人が英語を話せる理由は整理すると以下のようになるだろうか:

1) 小学校から英語の授業がある。

2) 日常言語に英語・スペイン語が混じるので英語慣れしている

3) 英会話に必要な音感・リズム感を持っている

4) トライ&エラーを是としてミスを恐れない国民性

5)英語ができれば海外で稼いで豊かな人生が送れるというモチベーション

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