民心を煽るのを抑制しつつ
新たな対日強硬姿勢を示す
興味深いことに、5月15日午前、中国指導部が「過度の反日表現を避ける」よう、メディアに指示を出している。事実、5月15日からテレビで放映された日本関連のニュースは、橋下徹大阪市長の慰安婦関連発言、安倍晋三首相の自己の発言に対する釈明、自民党の防衛大綱見直し案など、普段であれば日本非難報道が展開されそうな内容が多かったのだが、全て淡々と事実を述べるに止まった。一見、対日強硬姿勢とは相容れない内容の指示だが、実は、これも『人民日報』論文につながっている。
中国政府関係者によれば、この指示が出された理由は二つだ。一つは、日中関係の悪化が中国経済に与えた影響が予想以上に大きかったこと。もう一つは、民衆の現政権に対する不満増大に対する警戒である。昨年9月11日以降、尖閣諸島周辺での海監等の活動は、連日、中国国内で大々的に報道され、また、反日感情を煽るドラマやトーク番組等も多く見られた。民衆の反日感情が高まると、新たな手段をとらず、現状の変更もできない政権に対する不満も高まる。政権に対する民衆の不満は、中国指導者が最も恐れるものなのだ。
中国政府の当該指示は、民衆の不満が危険な状態になる可能性を中国指導部が認識したことを示すものである。だからこそ、民心を煽るのを抑制しつつ、一方で、新たな対日強硬姿勢を示さなければならない。ただ、新たな対日強硬姿勢は、中国国内向けであるばかりでなく、日本の姿勢に対する中国の憤怒の表現でもある。
最近、テレビや新聞のニュースを賑わせた接続水域を潜没航行した潜水艦が中国海軍のものだとすれば、その行動は当然の帰結であるとも言えるし、反対に、こうした行動のために上げられた狼煙であるとも言える。
潜水艦が実施する任務とは
2013年5月2日、12日、19日、それぞれ奄美大島(鹿児島県)、久米島(沖縄県)、南大東島(沖縄県)付近の接続水域を、潜水艦が潜没したまま航行した。これを防衛省が公表し、13日には官房長官が、20日には防衛大臣が、それぞれ、国名の公表を避けたものの、「注視すべき状況」であるとし、「相手に自制を促したい」と記者に述べた。潜水艦が潜没したまま接続水域を航行したことを、なぜ日本は問題にしたのだろうか?
潜水艦が潜没したまま領海に入るのは、明らかな敵対行為であるとされる。潜水艦は、敵の領海内であっても、発見されずに行動できるからだ。航空機や艦艇にはまねが出来ない。潜水艦が隠密裏に実施する任務は少なくない。良く知られるのは、その隠密性と生存性を活かして敵の核攻撃に対する報復攻撃を保証する戦略原潜であるが、抑止力以外の使用法も多い。