2024年4月29日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年6月13日

 一つは、潜搬入である。隠密裏に特殊作戦部隊(SOF:Special Operation Forces)を陸岸近くまで搬送して上陸させることが可能だ。米海軍巡航ミサイル潜水艦「SSGN-728オハイオ」などは、SEAL(Sea-Air-Land)等のSOFを水中で発出・収容するためのドライ・デッキ・シェルターを搭載している。

 もう一つは、機雷敷設である。港湾の入口に機雷を敷設されれば、その港湾は封鎖されてしまう。さらに、機雷を敷設するまでもなく、港湾や水道の出口付近に潜水艦を潜ませておけば、重要艦船の出入港をピンポイントで攻撃出来る。例えば、艦隊が東京湾浦賀水道を抜けて出撃する際に、水道外側で対潜哨戒を実施するのはこのためである。

接続水域航行は「見せるための行動」

 ところで、接続水域はあくまで公海である。潜水艦が潜没したまま航行しても、直ちに国際法に違反するということではない。しかし接続水域は、国連海洋法条約で「自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止することができる、領海に接続する12マイルの海域である」と定められている。わざわざ接続水域を設定しているのは、領海内で違法行為が行われる前にその外側で当該行為を断念させるためなのだ。

 先に述べたように、潜没航行潜水艦は重大な脅威になり得るため、接続水域でこれを発見すれば緊張するのは当然である。中国はこれをよく理解している。日本の公表も予想しただろう。いや、公表してもらわねば、中国側の意志の表明にならないのだ。潜水艦が潜没航行した接続水域付近には、潜搬入や機雷敷設などの対象と成り得る施設や港湾は見当たらない。実際に攻撃を意図した行動ではないということだ。

 そもそも、潜水艦がその位置を暴露しては、その存在意義を失う。しかし、味方ではない潜水艦の行動は、当該海域で行動する海上自衛隊及び米海軍に強い緊張を強いるものになる。最近の潜水艦による接続水域潜没航行は、「見せるための行動」であると考えられるのだ。

 現状から見る限り、日中首脳会談は遠のき、東シナ海では潜水艦のみならず他のビークルの行動も対日強硬の色合いを強めると予測せざるを得ない。戦争を回避すべきとする意見もあれば、そうでない意見もある。いずれにしても現場は頭に血が上りやすい。東シナ海では誤解や恐怖に基づく予期せぬ軍事衝突が生起する可能性があることも認識せねばならない。

 東シナ海を巡る事象は、全て意味を持って連動している。それは、中国にとっては当然のことだ。根が一つだからだ。中国にとって、尖閣問題は国際法の問題ではない。民族の屈辱の歴史認識の問題なのだ。それ故、いくら日本が国際法上の正当性を主張しようと、中国が納得することなどない。

[特集] 習近平と中国 そして今後の日中関係は?


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