「気は配ってほしいけど、気は使わないで」
「それまで車椅子の人を見たことがなかったから、それがどんな生活なのか、この先どうなるのか、なんて、先のことはぜんぜん考えていませんでした。だから不安もあまりなかったです。オペが終わって1カ月間は安静ですよね、食べられないから激やせして1か月間で10キロ減りました」
「まずはリハビリよりも起き上がる練習です。まずは角度5度からです。ベッドがリクライニングするんですが、オペが終わって1カ間はずっと仰向けで上ばかり見ていたので感覚がおかしくなっていて、5度でも貧血状態です。ブラックアウトといって起立性低血圧で意識が飛んじゃうんです」
急性期の治療を終えて退院した時は、卒業まで残り2カ月間という時期だった。車いすに座ることができないため、移動はストレッチャーに乗って、という状態だったが、どうしても卒業前に学校に行ってクラスの雰囲気をもう一度味わいたかった。
「寝たまま中学に通いました。授業も受けられないし、寝ているだけなので何もできないんですが、クラスの雰囲気がとても良かったので、みんなが話しているのを聞いているだけでよかった。転校生なのに、みんな仲良くしてくれました。いま振り返れば、よくそんな状況で行ってましたね」
各務が学校に戻る前、「気は配ってほしいけど、気を使わないで」という各務の言葉を母親からクラスのみんなに伝えてもらっていた。「動けないから気は配ってほしいけど、障害者だからって気を使ってほしくない」という意味なのだが、「なにか名言を残さなきゃ」とねらった言葉だそうだ。
各務が教室にいる間、母親は保健室で待機していた。
校内の合唱コンクールでは、みんなにストレッチャーを舞台まで運んでもらい、寝たまま参加した。
また、卒業生を送る会の体育祭団長あいさつでは、お腹に力が入らず、苦しくて、なかなか声が出せないながらも、やっとの思いで「ありがとうございました」とだけ言うことができた。
「卒業式で校長先生が私の話をしてくれたんですが号泣して、涙よりも鼻水がダーといっぱい出ちゃって大変でした。笑っちゃうくらい出て、先生に『私の鼻水やばいんだけど』って言いました(笑)」