「周りはどうせタマちゃんがやるんだろうと思っているから誰もやらないんですよ。だから私が。ぜんぜんしっかりしていないし、誰にも信頼されていない学級委員でした。あっははは……」とあっけらかんと各務は振り返る。
中学に入学すると同時に卓球部に入部したが、ここでもやはり「勝った覚えがありません」と振り返る。どうやら、スポーツでは誰にも勝ったことがなかったようだ。並みの人ならいくら競技が好きでも、負けてばかりでは嫌になってやめてしまうものだ。スポーツが嫌いにならなかったことが不思議なくらいで、これも一つの才なのではないかと思えてならない。
各務に一つ目の転機が訪れた。中学2年生がもうすぐ終わろうとする時期に両親が離婚。それを機に兄弟とともに母について浜松に引っ越し、中学も転校した。そして、ここでも卓球部に入部した。
各務にとっては両親の離婚よりも、幼稚園の頃からずっといっしょだった仲間と別れることが辛かった。
「一時グレかけたんですよ、先生と合わなくて。熱くなるのもバカらしくなっていました。でも、転校して環境が変わって、新しい友達もできて、元に戻ったんです。1年の時は熱い子で、2年で担任ともめてその道に入りかけて、転校して軌道修正。またまた熱さ復活です」
ムカデ競走練習中の事故
中学3年で人生最大の転機を迎える。
転校先での初めての体育祭。各学年が縦割りで組分けされ、最上級生が団長を務める。過去この役は男子しかいなかったと聞いた各務は、「やりたい!」と手を挙げた。
「もともと声は大きかったんです。団長になってみんなを引っ張っていきました。私燃えてたんですよ」
個人競技ではちっとも熱くなれない“タマちゃん”でも、団体戦では別人のようだ。
体育祭の3日前。ムカデ競争の練習中のことである。足を捻挫していた各務がムカデの中から抜けて、前からムカデの先頭を引っ張る役に回っていた。(この学校のムカデ競争は、ムカデの前と後ろに引っ張ったり、押したりする役がいた。各務はその前から引っ張る役目だった)
ムカデ競争は転ぶのが前提で、それも競技の楽しみのうちだ。
しかし、事故が起きた。