しかし、イラン経済が悪化の一途をたどる中、ハメネイ師は近く、二者択一の選択をしなければならないだろう。核合意か、核兵器か、だ。
ハメネイ師は妥協を嫌うが、核兵器を求めるという決断は多大なリスクを伴う。兵器化の明白な兆候─核査察官の国外追放や、兵器級のウラン濃縮など─はおそらく米国かイスラエルによる軍事介入を招くだろう。
さらに、核兵器の獲得まで段階が進めば、イランは全く新しい課題に直面する。サウジアラビア、トルコをはじめとする近隣諸国が対抗策を講じ、米国やフランスなどとの防衛協力および調達協定を強化するかもしれない。イランの近隣諸国が将来の軍事的選択肢の可能性を示すために独自の原子力計画に乗り出す可能性もある。イラン国内の少数民族の不満分子を煽り、イランの貿易を一段と妨げることにもなりかねない。
また、さらなる難題に直面する。
まず、十分な核抑止力を手に入れるには時間がかかるため、その間、次第にエスカレートしていく厳しい経済制裁に耐え続けなければならない。さらに、外国の諜報機関がイランの核施設に侵入し、核開発計画を一段と後退させるような様々な障害─コンピューターウイルスや〝事故〟による爆発、謎めいた暗殺や亡命─を用意する可能性も考慮しなければならない。
不信感と敵意渦巻く米国・イラン間
一方で、米国をはじめとしたP5プラス1は、イランから譲歩を引き出せるだけのインセンティブを与える覚悟があるかどうか決断するとともに、核合意に向けた突破口のあり方について考えなければならない。
米議会の一部議員は、イランは「核開発計画を打ち切り」、核兵器を作るための「能力を一切持たない」状態にしなければならないと訴えているが、イランがウラン濃縮をすべてやめる可能性は全くない。核不拡散の観点からすれば、それが理想的だが、イランのみならず多くの先進国が今や権利だと主張する濃縮をイランが放棄する可能性は事実上ゼロだ。
となると、現実的な問題は、イランを核兵器獲得から十分遠ざけておくために、どのように具体的なコミットメントを実行させることができるのか、ということになる。
このような取り決めには、イランが特定の実験を行わないこと、一定の原材料を輸入しないこと、核兵器の製造に欠かせないその他の活動を行わないこと、ひいては平和的な核開発計画として違法に当たる行為をしないことを誓う文言が不可欠だ。国際原子力機関(IAEA)は既に、核技術の兵器化についていくつかの基準を定めているが、さらに規定は増えるかもしれない。米国とパートナー諸国は、ハメネイ師が繰り返してきた「イランは核兵器を求めない」という発言が事実であるかイランに確かめられるだろう。