2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2013年6月13日

 イランの核開発計画と核兵器開発計画との間に相互合意に基づく境界線を確立できれば、イランが原子炉レベル(濃度5%未満)までのウラン濃縮を続けることを容認できる、ある程度の自信を持てるだろう。ハメネイ師やその周辺は、濃縮継続によって国内でメンツを保てるうえ、米国が約束を反故にする事態を防ぐ手段を得られる。

 こうした取り決めが結べるなら、米国とEUが最も厳しい制裁であるイラン中央銀行に対する制裁やEUの禁輸措置、SWIFTの金融制裁などを緩和することもできる。

 しかし、このような交渉を一段と難しくするのが、イランと米国という主要敵対国が互いに大きな不信感を抱き、激しく嫌い合っているという事実だ。実際、イランの核問題を解決するうえで根本的な障害は、米政府の真の狙いが、単にイランの行動を変えることではなく、イランの政体を変えることだというハメネイ師の根深い信念である。

 ハメネイ師は、イスラム共和国の転覆を狙う米国の戦略は、軍事侵攻ではなく、イラン国内からの文化的、政治的破壊にあると考えている。米国によるイランの人権状況の批判や「ボイス・オブ・アメリカ」などのペルシャ語メディア放送の後援などは皆、そのシンボルというのだ。

 13年6月に行われるイランの大統領選挙─表向きはアハマディネジャド大統領に代わって、それほど物議を醸さない人物が新大統領に選ばれることになるだろう─は、外交の流れを改善させるかもしれないが、ハメネイ師のシニカルな世界観や核政策を変えることはない。

 ここに米国の政策上の難題がある。ハメネイ師抜きでイランと核合意に至ることは不可能だが、その一方で、ハメネイ師を相手に拘束力のある核合意をまとめられる兆しはほとんど見られないのだ。30年以上にわたる不信感と敵意が渦巻く中、イランでイデオロギー上の利益よりも国益と経済的利益を優先する指導者が誕生するまでは、そうした政治的解決が実現する見込みは薄い。

 その意味で、イランとの対話継続は、必ずしも両国の相違を完全に解決するためではなく、冷たい対立が過熱しないよう相違点をうまく抑えておくために有益となる。オバマ政権がイランに示した前例のない歩み寄りは、世界とイラン国民に、両国関係において妥協を拒んでいるのは米国政府ではなくイラン政府だという事実を暴く一助になった。

 長期的で拘束力のある解決策がない以上、米国はイランを説得し、制裁の緩和とイラン国内での秘密工作の中止と引き換えに、核開発を制限する気にさせることを狙うべきだ。イランの核活動に意味ある境界線を引き、地域におけるイランの政治的影響力を封じ込めて初めて、長期的な解決に至る可能性が出てくる。

 これがいつ起き得るかは全く予測不能だが、過去2年間にアラブ世界で起きた出来事は、独裁者の見かけの無敵さと転落は紙一重だということを思い起こさせる。核問題をめぐる取引は、イラン、そして国際社会に、予測不能な戦争の傷なしで歴史が展開することを許す時間を与えてくれるかもしれない。

◆WEDGE2013年6月号より

 

 

 

 

 

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