中国政府も〝ゆるさ〟を推奨しているようだ。専門家からは「毒性はインフルエンザ以下。後遺症? 今のところ確認されていない」といったメッセージが出ているほか、重慶市など一部の地方政府は「感染しても軽症ならば出勤してよし」という通達も出している。
1年前の東京五輪では、中国選手団は防護服を着込んで日本に来ていたほどウイルスを恐れていたのに、その変わりっぷりには驚くしかない。
一気に変わった人民日報でのメッセージ
中国はこの3年間、いわゆるゼロコロナ対策を採り続けてきた。中国全土で感染者が拡大し、すでにゼロコロナ破綻が明らかになっていた時点でも、中国共産党の機関紙「人民日報」には「ゼロコロナ対策は堅持する」の文言がほぼ毎日掲載されていた。
チャイナウォッチャーの注目を集めていたのは、仲音というペンネームで寄稿されていたコラムだ。人民日報は、特殊なペンネームを使って中国共産党の重要なメッセージを伝えてきた。例をあげると、柯教平(クー・ジャオピン)は「科教評」(クージャオピン)と似た発音で、科技教育関連のメッセージを発信、仲言(チョン・イェン)は「重言」(ジョンイェン)と似た発音で「重視言論」、すなわち文芸関連のメッセージを発信するペンネームとして知られている。
仲言はコロナ対策に関するメッセージが多く、習近平総書記ときわめて近い立場とみられてきた。その仲言は11月12日から怒濤のように人民日報に寄稿してきた。
「常態的感染症対策攻防戦に断固勝利せよ」 11月12日
「人民第一、生命第一を断固堅持せよ」 11月13日
「海外からの流入と国内の感染再拡大の防止、この総戦略を着実に実行せよ」 11月14日
「動態的ゼロコロナの総方針を断固貫徹せよ」 11月15日
連日発表される評論の内容は似たり寄ったりで読むのも億劫になるほどだが、「感染拡大が続いてもゼロコロナは堅持する、勘違いするな」と日々釘を刺していたわけだ。
大見得切っている以上、しばらくゼロコロナは続くのではないか。対策の中身は骨抜きにして実質的なウィズコロナに転換するにしても、ゼロコロナ堅持の看板は下げないのではないか。これが筆者を含めて、衆目の一致するところであった。
ところが、11月30日を転換点としてすべてが変わる。
この日に掲載された仲音の評論「コロナ対策ガイドライン第9版を堅持し、20カ条の新規定を着実に実行せよ」を最後に、仲音の評論から「ゼロコロナ」の文字が消える。代わりに「誰もが自分の健康の責任者」という、自己責任を強調するフレーズが登場するようになる。11月30日にはコロナ対策の前線指揮を執る孫春蘭副首相が専門家との座談会に出席し、「中国のコロナ対策は新情勢新任務に直面した」と発言したことが伝えられた。
つまりは11月末時点で決断したということなのだろう。こうして12月7日にゼロコロナ対策を実質的に放棄する「10カ条の措置」が発表される。