税でも国債でも国民の負担は変わらない
しかし、多くの人が誤解しているが、必要な防衛費を国債で調達しようが、税で調達しようが、国民の負担が変わる訳ではない。なぜなら、防衛費を増額するとは戦艦、戦闘機、ミサイル、弾薬をこれまで以上に購入し、自衛官の増員、自衛官の待遇改善などにお金を使うことだ。
それらは、現在の世代が武器を増産し、現在の世代から自衛官を増員することだ。未来から、武器弾薬や自衛官をタイムマシンで持ってくることはできない。すなわち、現在の世代の生産しているものを削って自衛力を増強しなければならない。要するに、資金調達の手段に依らず、現在の世代が負担するしかない(野口旭『反緊縮の経済学』(4)負担を負うのは誰なのか、278-281頁、東洋経済新報社、2021年)。
もちろん、外国から輸入すれば、現在の世代の負担になることなく、武器弾薬を増やすことができる。このお金は、将来、外国に返さなければならないから、将来世代の負担になる。日露戦争の外債による戦費調達は、確かに将来の国民の負担になっただろう。
また、太平洋戦争の戦費を、借金でなく税で調達したら何か良いことがあっただろうか。税で調達しても国債で調達しても、無駄に多くの人が死んだことは変わらない。つまり、税か国債かより、何に使うかが大事ということだ。
従来の「中期防衛力整備計画」に代わる「防衛力整備計画」(2022年 12 月 16 日閣議決定)が発表され、長距離射程のミサイル、航空機や艦船の装備品などの維持整備、自衛隊の施設の老朽化対策、無人機、宇宙、サイバーの分野に防衛費を増額するという。素人の筆者なりに考えると、マッハ10や変則軌道を飛行するミサイルを打ち落とすことはできないので、防衛ミサイルの購入を減らして敵基地攻撃用のミサイルを購入することになる。早く言えば、パトリオットの購入を減らして、トマホークまたはその強化型ミサイルを購入し、いずれ国産化するということだ。
常識で考えて、飛んでいる敵のミサイルを打ち落とすより、地上にある敵基地を攻撃した方が簡単だから、筆者は安くつくと思う。ついでに言えば、将来、敵のミサイルが進歩するとパトリオットが役に立たなくなるのだから、現在、ウクライナに供与すれば良いと思う。今なら敵のミサイルを打ち落とせる。インフラや住宅を守るためのパトリオットなら、専守防衛で、日本の現在の法律にも違反しない。米国がパトリオットを供与すると報道されているが、ウクライナにとっては、いくらあっても良いだろう。
弾薬や修理部品などの装備品の購入を増やし、それを貯蔵できる頑丈な倉庫を作ることも必要だろう。国を守る自衛官の宿舎がボロボロでは申し訳ないから、改築する。給与面での待遇改善も必要だろう。
無人機などは、初期には輸入となるのかもしれないが、ライセンス生産できるようにならないと、修理やいざという時の増産ができない。つまり防衛費の増額とは、宿舎や弾薬庫という鉄筋とコンクリートの公共事業と、国産機械類を購入し、一部を外国製品に頼るということである。防衛費の増額とは、景気刺激のための公共事業の増額とあまり変わりはないのではないか。
どれだけの防衛費が必要なのか
防衛費の増額とは、現在GDPの1%の防衛費を2%にすることだ。すなわち、現在5.4兆円の防衛費を倍にすることだ。ただし、防衛費を1%以下にするために、防衛費の範囲を極力狭く解釈してきたが、2%はNATO基準であるので、より広い概念の防衛費になる。
そうすると、4兆円ほどの増額で良いようだ。4兆円の増額と言っても、これは2027年度の目標なので、毎年0.8兆円ずつ増加させていくということである。
図は、ここ10年の当初予算と補正で増額した後の決算とを比較したものである。赤が当初予算、青が決算、緑がその差額である。決算ではなく補正後予算にするべきという意見があるかもしれないが、補正予算で大幅に増加しても決算ではあまり増加していないこともある。最終的に重要なのは決算であるので、決算を採用した。
当初予算と決算の差額を見ると、16年と17年を除いては差額が1兆円以上となっている。リーマン・ショックのあった09年には12.4兆円、東日本大震災のあった11年から13年まで毎年7~8兆円、コロナショックのあった20年には44.9兆円となっている。
これらの増額予算は、不況対策の公共事業にかなりのものが使われている。すると、防衛費の増加分も公共事業と同じようなものだから景気刺激のための予算として追加できるのではないか。
08年から20年までの差額の累計は94.3兆円、1年あたりでは7.3兆円である。この差額はみな国債の増発で賄われている。防衛費のための4兆円ほどの国債増発と比べることも考えてほしい。