その後、学生運動は内ゲバ化して私は一時かなり虚無的になりました。授業には相変わらず出ずに、大学図書館にこもって朝から晩まで勉強していました。ですから、大学時代は雑学で、しかも独学で、興味のある切実な問題を考える本を読んでいました。昼食を抜くこともよくありました。ただ、文学部の哲学史の講義だけは聴講して、デカルト、スピノザ、ロック、ヒュームからカント、ヘーゲル、ハイデガー等の、講義に出る多数の哲学者の著書を、岩波文庫を中心に全部読みました。それと友人に誘われて入ったのが、日本経済史の正田健一郎先生のゼミナールです。
大学院では、イギリス経済史の小松芳喬先生にも教わり、その紹介でオックスフォード大学に留学してピーター・マサイアス先生の下で学びました。今振り返ると、オックスフォード時代も勉強しましたが、食事はきちんと大学の寮でとっていたので、やはり大学時代の4年間は、いつも腹をすかして、涙をこらえながら勉強していた感があります。ちなみに、大学時代の最初の下宿は、買い集めた本の重みで床が抜けそうになり、次に移った下宿では、本当に床が抜けてしまいました(笑)。
――最近は、お忙しくてなかなか読書の時間もとれないと思いますが、将来的に取り組みたい研究テーマがあれば教えてください。
川勝氏:早起きを心がけ、朝は大体3時から5時の間に起きて、朝食前まで勉強しています。つまり「勉強は朝飯前!」。早朝だけが自分の時間で、あとはすべて公務に捧げています。それでも静岡県知事になってから、昨年刊行された『「鎖国」と資本主義』(藤原書店)など、単行本4冊、共著を入れると5冊出しました。
最近とくに関心を持っているのは、20歳のころに読んだヤスパース『歴史の起源と目標』で知った世界史の「枢軸時代」。中国の孔子、インドの釈迦、中東の預言者、ギリシャのタレス等の哲学者などがほぼ同時にあらわれた時代です。私は以前『文明の海洋史観』(中公叢書)を書きましたが、現在のテーマは“文明の宗教史観”もしくは“文明の精神史観”とも言えるものです。この時代が後世のさまざまな思想、哲学、宗教の源流となり、現在のキリスト教とイスラム原理主義との宗教的な対立にもつながっています。そういう現代的な関心を持って、2600年ほどのスケールで歴史の問題を掘り下げています。いずれまとめようと思っています。
――今日はご多忙のところ、どうもありがとうございました。
川勝平太(かわかつ・へいた)
第53代静岡県知事。早稲田大学大学院経済学研究科修了。オックスフォード大学D.Phil.専門は比較経済史。早稲田大学政治経済学部教授、国際日本文化研究センター教授、同副所長、NIRA(総合研究開発機構)理事、静岡文化芸術大学学長、同大学理事長を経て現職。主著に『日本文明と近代西洋——「鎖国」再考』(NHKブックス)、『富国有徳論』(紀伊國屋書店、のち中公文庫)、『文明の海洋史観』(中公叢書)、『経済史入門』(日経文庫)、『文化力——日本の底力』(ウェッジ)、『日本の理想ふじのくに』(春秋社)、『資本主義は海洋アジアから』(日経ビジネス人文庫)』など。
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