このように、政策決定の際には、常に全方位に目を配ってさまざまな利害関係者を把握し、ある政策を実行した場合にはどのような影響を及ぼすのか、多面的に検討し熟慮することが極めて重要である。
一昨年には、「デジタル庁」という新しい官庁が発足した。アナログで非効率な業務や仕組みを、デジタル技術導入により効率の良い行政運用に変えていくという目的を考えれば、どの省庁もデジタル庁と連携し推進していくことが求められる。
すなわち、デジタル庁は、官庁横断的な政策を担うだけでなく、庁自体が横断的組織であると言える。だからこそ、さまざまな政治家や官僚が集まってこの国の未来を考えるときに、日本が今後どのようにあるべきかというミッションの共有を行い、それを具現化する手段として個別具体的な政策が展開されることを期待したい。
意外と社内で共有されていない
「わが社のミッションは何ですか?」
ある会社の取締役会で、新任の取締役が問いかけた。これを聞いた社長は、「そんなことは新任のあなた以外わかっているに決まってるじゃないか」と不満気だったが、実際に聞いて回ると、それぞれが語る内容が一致していないことが明らかになった、というエピソードがある。
取締役会という会社の中枢が集まる場ですら、意外にもミッションが浸透していない、ということである。そのような状況下で会社の経営について討議したところで、そもそも目指すべきゴールが異なっている以上、かみあわない議論になることは明らかである。
あなたの所属する会社では、従業員一人ひとりが会社としてのミッションを理解しているだろうか。近年ではパーパス経営という言葉も聞かれるが、いずれにせよ、組織が目指すべき方向性を全体で共有することの大切さにスポットを当てていることには変わらない。
国家や企業、その他あらゆる組織におけるミッションの重要性を理解していただけただろうか。新年や年度始まりという機会に一度腰を据えて、われわれのミッションは何か、という確認や議論を行うことが、より良い組織づくりへの第一歩になる。
小谷賢『日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで』(中公新書、2022年)
下村正樹=深谷信介「富山市におけるコンパクトシティ政策の成功要因分析」説得交渉学研究13巻(2021)19-27頁
ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出す ドイツ式交渉術』(早川書房、2019年)