最近よく、物価上昇を報じるニュースを耳にする。今回、日本が抱えるこの「物価高騰」の問題について、交渉学の視点から論じてみよう。
見極めるべきさまざまな値上げパターン
基本的に、経済成長とともに景気が良くなり物価が上がる場合は悪いことではない。しかし、バブル崩壊以降、ほとんど賃金が上昇せず、スタグフレーションが懸念される昨今の日本の状況下で、生活必需品等の値段が上がることは家計の圧迫にほかならない。値上げと一言に言っても、その方法にはいくつかのパターンがあることを頭に入れておく必要がある。
第1に、単純に商品価格を引き上げる方法だ。例えば、牛肉ミンチ100グラムが200円から250円に値上がりするといった形で、値上げは一目瞭然だ。このような明確な値上げは、即座に客離れや買い控えを引き起こす可能性が高いことは言うまでもない。
このため、価格は据え置き、数や量を減らす、事実上の値上げもよく行われている。例えば、これまで1箱12個入りだったチョコレートが、10個に変更されるなど、表面上の価格は同じでも、内容量が減らされ、実質的な値上げがなされる。
また、原材料を変えるケースもある。これまで国産原料が主体だったものを、安価な外国産の割合を増やして加工食品をつくるなどである。
あるいは少し変わった値上げの方法として、それまで1000円、2000円、3000円だった価格帯を、2000円、3000円、4000円に変更するといったケースも見られる。これは、人は3段階の選択肢があるときに真ん中を選びやすいというゴルディロックス効果(松竹梅の法則)を利用した値上げで、売れ筋の価格帯を2000円から3000円に引き上げる狙いがあることがわかる。このように、少しでも値上げを消費者に感じさせないよう、店やメーカーはさまざまな工夫を行っている。
消費者は不利になりやすい価格交渉
私たちはこのような物価高の中で、消費者として今まで以上にできる限り安く商品を手に入れたいと考えるだろう。家電量販店や自動車販売店などで店員と交渉する場面も増えつつあると思う。その際、つい金額にこだわってしまいがちだが、果たして最初から価格の話をすることが得策なのだろうか。