2022年9月28日(水)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2022年7月30日

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田村次朗 (たむら・じろう)

慶應義塾大学法学部 教授、弁護士、米ハーバード大学国際交渉学プログラム・インターナショナル・アカデミック・アドバイザー

慶應義塾大学法学部卒、米ハーバード・ロー・スクール、慶應義塾大学大学院。ブルッキングス研究所、米上院議員事務所客員研究員、米ジョージタウン大学ロースクール兼任教授を経て現職。著書に『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中央公論新社)、『リーダーシップを鍛える「対話学」のすゝめ』(共著、東京書籍)、『16歳からの交渉力』(実務教育出版)など多数。

 とはいえ、クリエイティブ・オプションを提示することは容易ではなく、そのために欠かせないのが「傾聴力」だ。交渉に臨む前に、相手について調べ、利害関係者分析を行うなどの事前準備は必要だが、あくまでも予測の域を出ない。

 実際には、その事前情報をもとに交渉の現場で相手を傾聴し、事実を見極め、相手の背後に隠れた情報やどのような関心事があるか(これを交渉学では利害(Interest)と言う)を探り、相手の考えを理解する。すなわち価値理解が必要である。こうした対話の積み重ねによって、相手と自分の共通項が徐々に明らかになり、その中からクリエイティブ・オプションは生まれるのだ。

家庭内から国家間まで交渉力が問題を打開する

 実はこの考え方は、単に日々の購買活動だけではなく、契約交渉やM&A交渉、ひいては国家間交渉にまで応用されているロジックにつながることが研究成果として明らかになっている。実際にハーバード大学や慶應義塾大学では、さまざまなレベルの交渉をケースとして取り上げ、模擬交渉というアクティブラーニングを行うことによって、交渉学の普及に努めている。

 冒頭で、物価高騰による値上げのパターンについていくつか示したが、価格面以外にも、隠された企業の販売戦略があることがおわかりいただけたと思う。各商品の買い物のたびに交渉するようなことはできないが、見た目の価格だけにとらわれず、大局的な視点から自らの購買行動を決定し、意思を示すことも、広く言えば企業に対する交渉の一つである。

 目の前の状況に一喜一憂せず俯瞰的な判断を心掛け、賢い消費者、そして交渉学のロジックを踏まえたネゴシエーターになっていただけたらと思う。

主要参考文献
田村次朗『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中央公論新社、2014年)
田村次朗「ハーバード交渉学と日本版交渉学の比較分析による事前準備の方法論 : 5ステップのSMATOアプローチを中心に」法学研究94巻6号(2021年)45-65頁

  
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