2022年12月9日(金)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2022年9月28日

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田村次朗 (たむら・じろう)

慶應義塾大学法学部 教授、弁護士、米ハーバード大学国際交渉学プログラム・インターナショナル・アカデミック・アドバイザー

慶應義塾大学法学部卒、米ハーバード・ロー・スクール、慶應義塾大学大学院。ブルッキングス研究所、米上院議員事務所客員研究員、米ジョージタウン大学ロースクール兼任教授を経て現職。著書に『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中央公論新社)、『リーダーシップを鍛える「対話学」のすゝめ』(共著、東京書籍)、『16歳からの交渉力』(実務教育出版)など多数。

 ウクライナ危機は、残念ながらまだその終わりが見えない。ロシアのウクライナ侵略に対して当初から、国連や北大西洋条約機構(NATO)、また世界の多くの国々から批判的な意見が寄せられている。一方で最近は、ウクライナを批判する見解も表れている。NGOのアムネスティ・インターナショナルが報告書で、ウクライナ側の戦術の中に国際人道法違反に該当する行為がある、と指摘している。

(Laspi/gettyimages)

 これらの情報が事実であるか否かの判断は筆者の範疇を超えるが、こうした情報によって国の評価が変わってしまうおそれがある。特に一瞬で情報を拡散できるSNSでは、それが加速度的に行われ、その対象が個人にも容易に向けられる。その結果、個人のマインドまで悪影響を受けるような時代が到来していると言える。

 地政学では従来、ユーラシア大陸の中央部を「ハートランド」と呼び、世界全体を支配する地域を指す言葉として使ってきた。しかし、インターネット上のサイバースペースが強大な影響力を持つ現代では、デジタル化されたデータや、我々が情報を認識し、解釈し、発信する際の認知スペースがハートランドであると、国際政治学者の土屋大洋慶應義塾大学教授は指摘する。

 私たち自身が、SNS上で飛び交う誤った情報(フェイクニュース)をもとに何かを考えたり発信したりすれば、認知スペースの中で適切な判断力を失ったり、失わせたりするかもしれない。このことは、思いもよらぬ反発や対立を起こしてしまう可能性を高めることを示している。こうした対立を防ぐために、または対立が起きた際にいち早く解決するためには、交渉学が大いに役に立つ。

情報の受け手として必要な心構え

 まずは、新たな情報に出会ったとき、その真偽を見極める姿勢を常に忘れてはならない。これまでもよく、特に戦争などの危機的状況時には、政府機関などによるプロパガンダが行われてきた。フェイクニュースやそれに近い情報が流され、世論の誘導が図られるのである。

 例えば、旧日本軍が大本営発表で「敗退」という言葉を避け、「転進」という言葉を用いたという話は有名である。実際は不利な状況で撤退せざるを得ない状況であっても、「転進」という言葉によって、あたかも計画通りに作戦遂行中であるかのように、いわば詭弁を用いて印象操作を行っていたのである。

 インターネットが普及した近年では、情報の量もスピードも桁違いに多く速くなった。そのような中でフェイクニュースは、まるでスクープであるかのように流される。それは断定できない事実であるにもかかわらず、すでに揺るぎない事実と確認されたかのように流されるため、人々の心を簡単に奪う力を持っている。

 たとえば、岸信夫首相補佐官がTwitterに投稿していない内容にもかかわらず、何者かがまるで投稿したかのような写真を捏造して拡散、これを駐英ロシア大使館が公式Twitterで事実かのように紹介したため、岸氏本人や日本の外務省公式Twitterが訂正の発信をする騒ぎとなったのは記憶に新しい。

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